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殺心未遂の顛末

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君は僕は僕の君の蜘蛛の糸





俺たちはインターネットの掲示板で知り合った。人の頭が一番トチ狂う午前2時、それにプラスしてしこたまアルコールを摂取した家畜並の頭で交わす会話は意味もなく弾み、完全にその場のノリで会うことになった。待ち合わせ場所でちょっと口に出すのには恥ずかしいハンドルを告げると、向こうも名乗った。家畜が猿になるくらいには酔いが醒めた。どこかの訛りの残る少し高めの声の持ち主は、一昔前の少女漫画から抜け出してきたような爽やかな男だった。しかし会ってみたもののこんな夜中でも開いてる店は限られてくる。アルコールで霞む頭ん中からしょうもない検索をかけた結果、コンビニで酒とつまみを買い足して家飲み、あとは目が覚めてから考えよう、ってな具合にとことんその場のニリだった。ショウゴくんとかいうその子も同意してくれたし。子、って言っても2つ下くらいだったんだろうけど、忘れた。チャットのようにどこまでも会話のログは流れ続け、明るくなり始めたところで俺の記憶はひとまず終わっていた。次に気づいたとき、俺は狭い部屋の汚い床でほんの数時間前に知り合ったばかりの男に好き勝手やっていた。
いや、そりゃ夢だと思ったよ?でもそれは幸か不幸か夢じゃなかった。お互いに熱を帯びた体は本物だった。大体、夢だとしたら女の子だろ。俺はオッパイ大好きだし。一体どんな経緯でこうなったのか、考えんのも面倒だったからとにかく何も出なくなるまで、俺はその行為に没頭した。実際、男は初めてとは思えないくらい(俺がね)気持ちよかったしさ。ショウゴくんがうまいのか俺がうまいのか解らんかったけど、ま、そんなこたどっちでもいい。


あーあ、練炭とか、塩化水素とか、ロープとか屋上とか石油とマッチとかそんなのもうどうでも良くなってきちゃったなぁ。


ショウゴくんは一度だけ、掠れた喘ぎの隙間から、『このまま死んで見つかったら腹上心中とかですか』みたいなことを笑いながら言っていた。第一発見者はトラウマもんだ、と返したら吐息だけで笑われた。その声もなかなかにエロかった。
今度こそちゃんと意識が覚醒すると二日酔いで頭の奥が疼く。水飲んで風呂でも入ろう、と思って立ち上がると腰にキた。全裸でうずくまる俺。何やってんだ俺。ぱきぱきになったパンツを持って用心しながら狭くて短い廊下を歩いていると風呂場の前でシャワーコックの音がして、すりガラスの向こうからショウゴくんが出てきた。明るいとこで見るとまた一段とマブシイ。でも体のあちこちについた痕はナマナマシイ。やったの多分、俺なんですけど。さすがにかなり疲れた顔でふらふらとシャンプーの匂いがすれ違う。シャワーありがとうございました、とすかすかの声を聞いたあと何の音もしなくなったから恐らく寝たんだろう。男同士の場合受身の方が疲れるってどっかで聞いたことあるし。
それからまたひと眠りして、夜になった頃に起きたらショウゴくんはまだ寝ていた。腹が減ったのでカップ麺でも食うか、とストックを見たらちょうどよくあと2つ。お湯が沸いた音でショウゴくんも起きたらしく、2人で黙って麺をすすった。先に口を開いたのは、俺。



「俺さぁ、先月切られて無職なんだわ。ハロワも行ったけど、新卒でさえ難しいこのご時世に高卒とか厳しいわけで。失業保険も限度あるし、親は入院するしでこの際死んでやろーかと思って、いろいろ準備してたんだよね」



なけなしの金使ったからそのうち餓死しそーだけど、とか冗談めかして言う。深刻な空気は俺じゃない。



「・・・俺は、急につまんなくなったから、ですかね。切られたベガさんには申し訳ないっすけど、仕事とか、周りの人間関係とか、もう嫌になってしまったというか。ま、率直に言えば、苛められてたんですよ。だから住んでた部屋とか甥っ子にあげて、出てきちゃった」



あ、本名はまひるです、松永まひる。女子みたいな名前ですよね、とイケメン顔で苦笑された。格ゲーのキャラから取ったハンドルはやっぱり俺には早かった、恥ずかしいので本名を名乗る。佐藤康介。超フツー。



「でも、その・・・康介さんに、に会って、死ぬとかどうでもよくなりました。結局俺の決意はその程度だったんだなと」
「俺も。もっかいハロワ通おっかなー、とか。自殺じゃ生命保険下りねーらしいし、それ以前に保険入る金ねーし。ショウゴくん、じゃなかったまひるくんとまた一晩中えっちぃことするために」



え?て顔をされた。俺も正直え?だけど。でも信じられないくらい体の相性はよかったらしい。あそこまで熱中できたのは久しぶり、むしろ初めて初体験。うわー恥ずかしい、なんちって。



「家だけは俺まだあるし。見ての通り汚いけどどうぞどうぞ」
「・・・えーと・・・あの、じゃあ、家が見つかるまで・・・・」



十数時間前までの自殺志願者を変えたのは、大量のアルコールとさわやか美青年と犬みたいなセックスだったとさ。
行き先が末永いかまでは、現在進行形で昔話じゃないから分かりませんけど。



作品名:殺心未遂の顛末 作家名:蜜井