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繋がったものは6

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「ほんで、なんでカニ? 」

 帰宅した俺の嫁が、鍋を覗き込み、質問した。鍋の中身は、人参、たまねぎ、きゃべつ、シイタケとカニ脚だ。そして、なぜか、洋風のブイヨン仕立てだったりする。

「これは、生ちゃうで?  たまたま、スーパーで、在庫一掃セールやったから半額ちゅー去年のカニ。出汁にするには、ええかと思てな。」

「カニは面倒やて言うてるやん。」

「あーはいはい、わかってるわかってる。おまえが風呂入ってる間に、身はせせっといたるさかい。」

 うちの嫁は、熱いものが苦手で、カニ鍋なんてものは論外の食べ物だ。熱々を、はふはふんなんてさせようものなら、確実に口内をヤケドするという特殊な生き物だからだ。カニ酢はいいが、カニ鍋はいやや、なんて、我侭を言う。けど、冷めた雑炊は好きなので、食べられる温度になるまで放置する。

 そういう理由で、うちではカニ鍋は珍しい。まあ、とりあえず、風呂に入ってもらってる間に、仕上げをする。ぐつぐつと煮たカニは取り出して、少し冷まして身をせせる。去年のカニなので、冷凍焼けしているので身は美味いもんではない。だから、取り出した身は、再び、鍋に沈めて野菜と共に取り分ける。これが、第一弾。まず、取り出して冷ます。それから、ここに冷や飯を投入して、温まったらタマゴを溶き入れて、洋風おじやにする。これも、取り出して器に冷ます。これが、第二弾。で、フライパンで焼いておいた秋鮭を皿に持ってラスト。スープとおじやとたんぱく質だ。

 半額以下のカニだから、こんなことが可能になる。出汁としては、なかなかええ感じだった。完成する頃に、俺の嫁は、茹だって出て来る。

「うわぁーこれはええわ。」

「せやろ? 」

 そして、すっかりと冷めたスープあたりから口をつける。おじやは、まだ湯気があるから、無理という判断だ。俺は、おじやから食べる。犬舌というほど、熱いもの好きではないが、多少温かいもののほうがええからだ。

「忙しか?」

「いや、こんなもんやろ。来月は、ちょっと遅いと思う。あと、休日出勤ありや。」

「カニはあかんかのー? 」

「カニ道楽でもしばいとけ。」

「いや、せっかくやったらゲリラで温泉でカニとかええやんか。」

「ええけど、おまえ、雪道はあかんやろ? 」

「せやから、ない時にゲリラやんけ。」

「・・・・・そんなにカニ好きやったか? 花月。」

「なんとなく行きたいなあーっちゅーか、この間、おまえが 『カニ』って言うたから。」

「あれは、この時期やから、おまえやったら、そっちやろうと予想しただけや。俺は、カニは面倒やからええ。」

「別に剥いてあるヤツにしたらええやん。剥いたるし? 」

「ええけどや。来月頭しか土日連休はあらへんで? 」

「オッケー。」

 予定さえ抑えておけば、どうにでもなる。なんせ、行きあたりばったりが、俺のドライブの基本だ。そこまで、風邪をひかさないように、あんじょう、世話しなければならない。ここんところ、新型インフルエンザなるものが蔓延しているので、用心はしている。四十代から五十代ぐらいは、免疫があるらしくひかないらしいのだが、生憎と、俺も水都も三十代だから、そこそこ危険区域だ。

「どっこも痛ないか? 」

「ない。・・・・・毎日うっさいんじゃ。おまえこそ、どうなんや? 」

「俺は全然。日々、健康や。」

「二年ほど前に、おまえ、インフル患ってなかったか? 」

「あーそんなんあったなあ。おまえこそ、毎年、なんだかんだで、インフルで寝込むよな? 」

「なんでやろうなあー? 俺のほうが、職場と家の往復だけやから安全なはずやねんけどなあ。」

 まあ、俺の場合、毎日のようにスーパーだのデパ地下だのに立ち寄ってるから、罹患率は高そうに見える。だが、問題は、そこではないので指摘した。

「そら、過去の悪行が祟っとるんや。栄養失調で、何度も倒れてるような人間は、免疫力あらへんのや。」

 学生時代、毎日、カップめんとか半額の弁当とかを、一日一食なんて生活をしていた人間は、身体中身がぐだぐだで抵抗力なんかあるはずがない。何度か栄養失調で倒れていたらしい。俺が付き合ってからも、夏バテと栄養失調のダブルパンチで入院したことがあった。

「ちっっ、痛いとこ突きやがる。」

「ちゃんと食べたら、マシになったやろ? 」

 そして、俺は、それを見てから、無理矢理にでも食事を摂らせることにした。栄養考えて自炊したものを与えていたら、結果、こんなことになった。

「佐味田のおっさんが、おまえに礼言いたいって言うてたわ。俺が、健康なんは、おまえのお陰やからってな。」

「さよか。けど、俺は、あそこの人間とは二度と逢いたくないから、感謝だけ受け取っといたるって言うといてくれ。」

「・・・・あー、そう言うと思て、この間、撒いてきたんよ・・・・・あっっつーーーーっっ。」

 喋りながら、レンゲで、おじやを掬った俺の嫁は、まだ熱いところを掬ったらしい。涙目で、目の前の冷えたウーロン茶を口に放り込んで、そこで、舌を冷やしている。

「水都さんや? ちっとは食べてるもんに意識を向けられんかえ? 」

 ひりひりするらしくウーロン茶に舌を浸したまま、俺の嫁は睨んでいる。熱いものを食わせたおまえが悪い、と、理不尽な文句が、背後から聞こえるような凄み方だ。あんだけ冷やしてもあかんのかい、と、その器を引き寄せたら、確かに底のほうは、まだ湯気があがっていた。ぐりぐりとレンゲで混ぜてみたが、それぐらいでは冷えないので、台所で、器を違うものに入れ替えてきた。

「ほれ、冷えたさかい、あーんしぃ。」

「もうええ。」

「あかんて。ちょっと舌見してみ? 」

 べろーと、ウーロン茶から引き出した舌を、俺の嫁が見せてくれる。それを、べろりと舐めたら冷たかった。痛そうでもないから、やけどもしていない。

「なんもない、なんもない。ほれ、食わせたるさかい、口空け。」

 ふうふうと冷まして、まずは、スープを飲ませる。すでに冷たいというレベルまで冷めているから問題ない。そして、問題のおじやを食べさせてやると、冷たくなっていたので、手を差し出した。まだ食べるつもりになったらしい。

「ちゃんと食べや。シャケもな。」

「やっぱりカニいらん。」

「カニやないがな。それは。おじやは好きやないか。」

「花月が悪い。」

「へーへー、冷ましたりひんだんわ、謝るわ。すまんすまん。」

「でも、美味いんよ。おまえの料理て、なんで、こんなに美味いんかなあ。」

「あはははは・・・そら、愛が一杯詰まってるやんかいさ。」

「・・・・・・・・さよか・・・・・・」

 呆れたように、俺の嫁は目を眇めて俺を睨んでから、食べるほうに集中した。ほんまに、愛が詰まってるっちゅーのよ。

作品名:繋がったものは6 作家名:篠義