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繋がったものは5

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月曜日から、いつもの日常が始まる。とはいうても、うちの嫁は、月曜の朝ほど機嫌の悪い時はない。

「みなとちゃーん、朝やでぇー? 」

 猫なで声で身体を揺すっても起きる気配はない。しゃーないので、布団を剥ぐ。すると、「死にたいんかぁー」 と、寝起きの低い声で唸りやがる。部屋は暖房をいれて温めてあるから寒くはないはずだが、低血圧の嫁は、それでも寒いらしい。

「はいはい、怒らんとこな? はい、温かいやろ? 」

 お湯で濡らしたタオルで顔を拭く。こうすると、わりかし穏やかに覚醒するということが判明してから、月曜は、この手を使っている。

「・・いやや・・・・まだ眠いんや・・・」

「どあほっっ、もう七時じゃ。」

「まだええ。九時に出る。後一時間延長。」

「あかん。そんなんしたら、おまえ、絶対に遅刻するから。はよ、起きっっ。」

 うだうだとぐずっている嫁というのは、なかなか可愛い。ベッドで丸くなっているので、抱き起こしてぬるくしたコーヒー牛乳を飲ませる。こいつには、朝から食事するなんて思考はないので、強制的に食わせる。ちょっと飲ませて、パンを齧らせる。もにっと小さく齧って、もにもにと無言で食べているのは、どこぞのハムスターのようで笑える光景だ。

「いらん。」

「あかん、もうちょっと。ほら、野菜スープ。」

 次に野菜スープ。冷蔵庫のくず野菜で、適当にしているが、まあ、温まるし栄養もある。それらを、ちょっとずつ食べさせていると本格的に覚醒して、自力で座るようになる。ここまでが二十分。朝の和み時間だ。もちろん、食わせつつ俺も食っているので、朝食は、これで摂れる。

「はよー」

「はい、おはようさん。」

 先に食わせるので、次に洗面ということになる。その間に、片付けをして、俺も着替える。嫁が戻ったら入れ替わりで、今度は俺が洗面だ。で、なんだかんだで、八時前には出社できる体裁は整っている。俺の職場は、ここから徒歩10分電車で15分なので、八時半ギリギリで間に合うという算段だ。

「水都、俺、行くわ。」

「おう、いってらっしゃい。」

「ちゅーは? 」

「あるかっっ、このぼけっっ。」

 罵声を浴びつつ出勤するのも、月曜のお約束だ。俺の嫁は、基本フレックスなので遅刻というのはないのだが、遅くなればなるほど帰宅時間も遅くなるわけで、それでは意味がないから同じように出勤させているのだ。

・・・・・・さて、今日は、何しようかなあ。まだ、野菜あるさかいポトフでもして、あとは、スーパーの特価と相談さしてもらおうか・・・・

 料理関係は、俺の担当だ。俺の嫁もできることはできるが、仕事上がりが、あちらのほうが遅いから必然的に、そうなっている。掃除と洗濯は、適当だが、こちらも、ほぼ俺。寝起きの悪い嫁が、朝から洗濯機を回して干すなんてできるわけがない。

 夜の食事の後片付けとか風呂掃除くらいが、ウィークデーの嫁の担当だ。それすら、深夜残業大会になるとできなくなる。なんにもできひんで申し訳ないと、家賃は嫁が出している。稼ぎが、ちょうどそれぐらいの差があるのだ。

・・・そらせやろ、俺は定時上がりが基本やけど、あいつ、八時上がりが定時やもんなあ。・・・・・・

 以前よりはマシになったので、最近は九時前に帰って来るようになったが、以前は午前様なんてザラやったし、休日出勤ありまくりだった。会社を辞めると言い出した時は、一も二もなく賛成した。けど、おしゃかにされた。なんかようわからんが組織改革ちゅーえらい格好のええことがあって、部長になったらしい。当人は、ものすごく嫌そうで、いまだに、「はめられた。」 と、怒っている。







 うちの職場は、とても暇だ。会計監査が入る時と予算作成の時期は忙しいが、それ以外は暇だ。だから、朝からまったりと喫煙コーナーで、ぼへぇーとコーヒーを飲んでいる。

「週末はどやった? 」

「おう、デートしてきたで。あれ、なかなかええから、おまえも行ってこいや。」

 同期の御堂筋が、現れたので、週末デートの内容を教えたら、あかんあかんと断られた。

「そういう趣味はあらへんのや。俺なんか週末は荷物持ちやったで。」

「買い物か? 」

「まあ、買い物っちゅーたら、買い物なんやがな。同人誌即売会って知ってるか? 」

「はあ? あの、俳句とか詩集とか売ってるやつか? 」

「ちゃうちゃう、アニメのパロディとかな、おまえとこみたいなカップルの本とかな。最近、流行ってんのは、鉄道とか国の擬人化。それで、男同士でいちゃこらとするっちゅー本。」

 御堂筋の彼女は、所謂、腐女子と呼ばれる特殊な人種で、アニメオタクから、さらに進化して、そういうもの本を読むのが好きという人だ。俺らのことを御堂筋から聞いて、是非とも生もののゲイ夫夫と、お話を、と、強引に接触を図ってくるが、今のところ、御堂筋が止めてくれている。

「本屋に買い物っちゅーことか? 」

「いや、そういうのばっかりを売ってるイベントがあるんや。昨日は、二箇所掛け持ちやったんで、俺が荷物持ちさせられたんよ。」

 そして、すごいと思うのは、この男、そういう本を、ある程度読んで理解しているというところだ。だから、そういう会場へも出入りできる。

「しかし、いろんなこと考えるよな? 俺が一番、びっくりしたんは、新幹線。東海道を取り合って、東北と山陽がバトルを繰り広げるねん。」

「はあ? えーっと、新幹線やろ? 」

「せやから擬人化やないか。全部、人型なんよ。」

「あーーーーえーーーーなんじゃそらっっ。」

「すごいやろ? あの発想の転換は、すごいと感心した。」

「いや、読んでるおまえに、俺は感心する。」

「そこはな、軽い気持ちで読むと笑えるで? あんまグロイのは勘弁やけど。」

 貸したろか? と、言われて首は横に振った。見たくないというか、うちの嫁に、その本を発見されたら、何言われるかわかったもんやない。

「それは遠慮するわ。」

「そうか。なかなかおもろいのに。」

「おまえ、それ、他の人間にも勧めとるんちゃうやろな? 」

「それは無理や。おまえやから話でけるけど、他には言われへん。・・・そういや、浪速さん、元気か? ちゃんとメシ食うとるか? 」

「ああ、食うとるで。」

 御堂筋には、ちょっと頼んだことがあって、ちょっと前に、うちの嫁に食料を運んでもらったことがある。その前に、こいつの田舎の行事にかこつけて、俺らは結婚式もさせてもらったので、顔見知りではあるのだ。人嫌いの俺の嫁は、ほとんど口は利かなかったが、まあ、顔だけは知っている。

「カニ情報が入ったら、流したるから行ってこい。うちのと日程、重ならんように。」

「おおきに。俺、おまえの彼女とだけは接触しとうないから、よろしゅうに。」

 そろそろ仕事に戻ろうか、と、立ち上がった。カニも、そろそろ解禁だ。旅行好きの御堂筋の彼女は、穴場や特選情報にも詳しいので、それなりに活用はさせてもらっている。何事もなければ、12月の初めにでも、ちょっと行ってもええな、と考えた。


作品名:繋がったものは5 作家名:篠義