雨 恋
「やだーっ!良ちゃーんっ!!」
――― 雨雲を突き抜けるかのような少女の悲痛な悲鳴が響く空。降りしきる雨に紛れるように、一筋の小さな光が地上に舞い降りた。
ざわめく街。駅前の大きな歩道橋に薫は立っていた。雨が降っているにも関わらず、傘も持たずにずぶ濡れのまま、歩道橋の上から車道を走る自動車の列を見ていた。雨の休日。駅前の人はまばらで、道行く人はみんな傘をさして急ぎ足で歩いている。誰も、薫に気付かない。
「良ちゃん……」
小さく呟き、手すりに手を掛ける。
サンダルから足を抜き、その上に立つ。
手すりを持つ手に力が入る。
「……今、行くね……」
――――――――――――
「国立のピッチに連れてってやるよ!」
それが良の口癖だった。
良と薫は幼馴染み。隣同士で親同士も仲が良く、ヤンチャで有言実行の良に引っ込み思案の薫はいつもくっついていた。周りにからかわれる年頃になっても、
「いいんだよ! 薫は俺が守るんだから!!」
と、当たり前のように良が薫の手を離す事はなかった。
やがて、ヤンチャな少年はサッカーを始めた。元々、何をやらせても難なくこなしてしまう運動神経の持ち主だった良。あっと言う間にレギュラーの座を手に入れてしまった。忙しくなったのは薫だ。引っ込み思案が高じて、出不精になっていた所へ、
「薫っ! 俺、正キーパー!! 応援、よろしくっ!!」
などと良が言うものだから、試合の度に手作り弁当持参で競技場へと出掛けるのが日課になってしまった。
小学校からゴールを守り、それはそのまま中学・高校へと続く。気が付けば、高校へはサッカーを条件に推薦入学を決めていた良の後を追って同じ高校へと進学。
「俺の在学中に、国立に行くんだ!」
意気込む良の横で、薫が首を傾げる。
国立競技場はサッカー界の聖地である。県大会で優勝し、そのまま勝ち進んでベスト4に入ると年明けに国立競技場で行われる【全国高校サッカー選手権決勝大会】への出場が決まるのだ。
「すごい事……なの?」
キョトンとする薫に、
「お前、いい加減にサッカー覚えろよな!」
良が右頬に笑くぼを作って額を突付く。
「良ちゃんが取ったら無得点で、良ちゃんが抜かれたら1点でしょ?」
「どんな覚え方だよ」
独創的なそのルールの解釈に良が笑った。
――― 雨雲を突き抜けるかのような少女の悲痛な悲鳴が響く空。降りしきる雨に紛れるように、一筋の小さな光が地上に舞い降りた。
ざわめく街。駅前の大きな歩道橋に薫は立っていた。雨が降っているにも関わらず、傘も持たずにずぶ濡れのまま、歩道橋の上から車道を走る自動車の列を見ていた。雨の休日。駅前の人はまばらで、道行く人はみんな傘をさして急ぎ足で歩いている。誰も、薫に気付かない。
「良ちゃん……」
小さく呟き、手すりに手を掛ける。
サンダルから足を抜き、その上に立つ。
手すりを持つ手に力が入る。
「……今、行くね……」
――――――――――――
「国立のピッチに連れてってやるよ!」
それが良の口癖だった。
良と薫は幼馴染み。隣同士で親同士も仲が良く、ヤンチャで有言実行の良に引っ込み思案の薫はいつもくっついていた。周りにからかわれる年頃になっても、
「いいんだよ! 薫は俺が守るんだから!!」
と、当たり前のように良が薫の手を離す事はなかった。
やがて、ヤンチャな少年はサッカーを始めた。元々、何をやらせても難なくこなしてしまう運動神経の持ち主だった良。あっと言う間にレギュラーの座を手に入れてしまった。忙しくなったのは薫だ。引っ込み思案が高じて、出不精になっていた所へ、
「薫っ! 俺、正キーパー!! 応援、よろしくっ!!」
などと良が言うものだから、試合の度に手作り弁当持参で競技場へと出掛けるのが日課になってしまった。
小学校からゴールを守り、それはそのまま中学・高校へと続く。気が付けば、高校へはサッカーを条件に推薦入学を決めていた良の後を追って同じ高校へと進学。
「俺の在学中に、国立に行くんだ!」
意気込む良の横で、薫が首を傾げる。
国立競技場はサッカー界の聖地である。県大会で優勝し、そのまま勝ち進んでベスト4に入ると年明けに国立競技場で行われる【全国高校サッカー選手権決勝大会】への出場が決まるのだ。
「すごい事……なの?」
キョトンとする薫に、
「お前、いい加減にサッカー覚えろよな!」
良が右頬に笑くぼを作って額を突付く。
「良ちゃんが取ったら無得点で、良ちゃんが抜かれたら1点でしょ?」
「どんな覚え方だよ」
独創的なそのルールの解釈に良が笑った。