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たかむらゆきこ
たかむらゆきこ
novelistID. 9809
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白緑

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9. 急がなくて良いから



 降りて来いと声が掛かったのは真夜中だった。久々見張りのサンジが星のない空を眺めていた時に聞こえた。

 毎回思うが、月も星もない夜は不気味だ。本来様々な青で彩られた世界が、黒で統一される。暗闇は心の弱いものを誘うと云う、暗闇は全てを飲み込むという。

 甲板の声に従って、サンジは見張り台を降りた。

「‥‥なんか用か」
 自分を呼んだ声が誰のものかはわかっていた。本当は降りるべきではなかったのかもしれない。しかし自分が降りなかったとしたら、間違いなく上がってきただろう。サンジの発した言葉になにを返すでもなく、ゾロは見つめる。海と空の交じる暗闇を。

 なにも言わない男に業を煮やし、おい、サンジが苛立てばゾロは視線を向けた。

「なんだよ」
 呼吸を置いてなにか言おうと。しかし言いかけたその唇を一旦閉じ、首の後ろに手を当てる。それは困った時に出る彼の癖、サンジもそれを知っていた。
「ゾロ、」
「言ったよな」
「あ?」
 この男は言葉の文法をしらないのか。主語を言ってから話せ、サンジは小さく呟く。
「てめェが言ったんだ」
「なにを」
「大剣豪になった暁にはってな」
「あ?言ったか?」
 勿論覚えてる、昼間の話だ、忘れようがない。



「そんなにおれを殺してェのか?」

 耳を疑う言葉、それは空気を揺らす。



「なんだと?」
「そんなにおれを殺してェのかっつったんだ」
「誰が言ったよ、そんなこと」
 真正面からサンジはゾロを睨みつけた。サンジの後ろ、雲の隙間から月が覗いているのが見える。ゾロはサンジを越して月を見た。

「世界一は急ぐモンじゃねェ」

 視線をサンジに戻す。

「余裕がねェとな」

 死ぬか生きるかだ、そうだろ?問われればサンジは思い出していた、バラティエで見た男の姿。己を貫き通す目の前の男の姿を見たんだ、目を逸らせなかった。

「でもよ、」
 ゾロはサンジの髪に指を滑らせる。久々の感触にサンジの体は跳ね、心臓が音を立てた。
「そんな褒美があったら、おれは死に急ぐ」
 焦って、無茶して、世界一に挑むことになる。おれには余裕が必要なんだ、そう思わねェか?指は髪を梳き、遠く朧月がその細い金糸を照らす。
「な、にが、‥‥言いてェ‥」
「わかってんだろ」
「わかんねェよ」
 わかってる、わかってるさ。おれはおまえとは違う、鈍感でもなんでもねェんだ。実際、今日一日昼間のことを何度も後悔した。だけど今更引っ込みはつかない、それに、一番の改善法だとも思った。


「待てねェんだよ」
「っ、」
「目の前にてめェがいるのに忘れろだと?」
「そうじゃねェ、」
「同じだ。おれは初めに戻すこたァできねェ」


 硬い手が顎を捉える。

 強い眼が瞳を捉える。


「おれの性質ァ、てめェが一番わかってる」
 なんて野郎だ、サンジは目を見開いて小さく息を呑んだ。
 有無を言わさねェじゃねーか、その言い方は。お前のことなんて何ひとつわからねェんだ、おれは。でもきっと、一番わかりたいと思ってる。


 観念したかのように、サンジは笑った。

「あァ、そうかもな」



作品名:白緑 作家名:たかむらゆきこ