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チューリップ咲く頃 ~ Wish番外編② ~

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「ほら、そうやってすぐに泣く!」
 小さな木綿花が腰に手を当てて声を上げた。その先には、転んで泥だらけになったままへたり込んで泣きじゃくる、小さな慎太郎。
「転んだくらいで泣かない!」
 怒る木綿花に、泣きじゃくりながら、
「……だって……痛い、もん……泥んこ……だ、もん……」
 慎太郎が言い返す。
「血だって出てないじゃないよ!」
「木綿花が押したから、転んだんでしょ!!」
 泣きながら懸命に主張を通す。
「ちょっとぶつかっただけじゃない!! 転ぶ方が悪いんだもん!」
 木綿花がそう言ってポケットからハンカチを取り出し、乾いてきた慎太郎の泥をはたき始めた。
「泥んこの手で泣くから、顔まで泥んこだよ」
 ほら! と、顔を拭ったハンカチを見せて笑う。
「ホントだー」
 ハンカチを覗き込んで、泣いていた慎太郎も笑った。
「あそこで……」
 と公園の端にある水道を指差し、
「顔と手を洗って、お家に帰ろ」
 木綿花が汚れている慎太郎の手を引く。
「木綿花、お手て汚れちゃうよ?」
 急に手を握られて頬を染めた慎太郎が呟くが、
「いいよ。一緒に洗うから」
 お姉さん然とした木綿花に流されてしまう。
 『一緒に』という言葉が嬉しくて、思わず“エヘヘ”と慎太郎。
「なに笑ってんの? 気持ち悪いよ」
 木綿花が眉をしかめて、水道の蛇口をひねる。
「あのね……」
 出てきた水に手を差し出して、
「シンちゃんね、おっきくなったら、木綿花とお嫁さんになるの」
 慎太郎が顔を赤くするものの、
「言葉、変!」
 木綿花にあっさりと一喝される。
「あたしは“お嫁さん”になるけど、慎太郎もなるの?」
 まだ汚れている慎太郎の手を掴んで、木綿花がクスクスと笑う。
 慎太郎はというと、自分の間違いに気付く事無く、
「木綿花、シンちゃんのお嫁さんになる!?!」
 嬉しそうに顔を上げた。
「なんない!」
 途端に慎太郎が泣き顔になり、
「なんで!?」
 泣きそうなまま、食い下がる。
「木綿花、シンちゃんの事、嫌いなの?」
 慎太郎の洗い残しをこすってやりながら、木綿花曰く。
「泣き虫は嫌い。男の子のクセに自分の事を○○ちゃんて呼ぶ子もイヤ」
「……木綿花……シンちゃんの事……嫌い……なんだ……」
 瞳に涙を溜めて項垂れる慎太郎の横で、木綿花が自分の手を洗い始める。
「慎太郎は好きよ」
「えっ!?」
「弟みたいで」
 ……それは、慰めにも何にもならない……。
 ――― 初めての告白があっさり敗れた、木綿花と慎太郎、四歳の春。