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繋がったものは2

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嫁が、食卓で言いだしたことに、そういや、俺は、こいつの家庭事情なるものを把握してないな、と、気づいた。

「連絡したったらええがな。」

 普通、何か急ぎの用事があるから、興信所なんてものを使うのだろうから、そう勧めたのだが、「めんどくさい。」 の一言で一刀両断にしやがった。菜っ葉の煮物の汁をメシにぶっかけて、茶漬けがわりにして食い終わる。

「なんぼ、鬼子のおまえかて、用事ぐらいできることあるやろ? 」

 なんか事情で祖父母に育てられたらしく、その祖父母が亡くなってから、両親と暮らしたら、行き違いだらけで、どうにもならなくて孤立していたということは聞いていた。そして、俺の嫁に引越し先も告げずに、どこかへ移住されてしまったので、行方もわからない。

「碌なことやあらへんて。だいたい、引っ越す時に、俺の戸籍だけ外して置いていくようなヤツラやで? 」

「はあ? 」

「住民票移動させんのに、役所へ行ったら、俺の戸籍だけ別扱いになっとった。浪速の家は、本籍も移動させたらしい。ほんで、俺だけ別の戸籍にして、こっちに残してあったんや。」

「そらしゃーないやろ? どこにおるかもわからへんおまえは移動させられへんかったんやろう。」

 ということは、他府県に移動したということだろう。逢いたいってだけなら、逢えばいいと、俺は単純に考えたのだが、そういうことではない、と、水都は反論した。

「例えば、借金の保証人とか、もっとダイレクトに金貸してくれとかやったら、どうすんねん? 居場所知られたら、延々とやられるんやで? 」

「そういうのもあるんか。」

「そっちのほうが多いやろ? 切羽詰ってないと、俺なんか探さへん。」

 うちの嫁は、人嫌いだ。その根本的な原因が、家族との不和に遡っているのは間違いない。高校生から自立していたと、堀内は言うとったから、その頃から家庭との縁は切れていたらしい。俺が出逢った頃は、すでに大学二回生になっていて、四畳半のボロアパートでバイトしながら暮らしていた。

「逢いたいとか? 」

「ないな。」

「それやったらええわ。あんみつ食べるか? 」

「うん。」

 食器を下げて、冷蔵庫からコンビニで買ったあんみつを取り出した。脳ミソを使う仕事だから、甘いものを補給させるようにしている。ただし、洋菓子は却下されることが多い。

「おまえのは? 」

「俺は、ええわ。アイスにする。」

 三十路真ん中のおっさん二人で、食卓で、そんなものを食べているのが、慎ましやかなのか、ほのぼのしているのか、意見が分れるところだろう。だが、うちは、ふたりとも、あまり酒は飲まないから、普通に食事してデザートというのが、いつも通りだ。

「流れ星あかんかったな? 」

「せやな。」

 秋から冬にかけて流星群のピークは、何度か訪れる。なぜか、今年は秋の部は全滅だった。曇ってしまったり雨だったりで、星空は拝めなかった。とはいうものの、ピーク前後は、ピークほどではなくても、星は降る。けったくそ悪いと、愚痴っている俺の嫁のために、ちょっとは気晴らしさせることを右脳の予定表に書き込んでおく。

「土日は、出勤か? 」

「土曜は出勤やけど、日曜は休む。本社で会議あって、そっちへ人手が取られるんや。」

「ほなら、土曜は待ち合わせて外食でも一発かますか? 」

「せやなあ。」

「迎えに行くから、終わりそうになったら電話くれ。」

「おう。」

 ちょっと味見するか? と、アイスクリームのカップを渡したら、あんみつがやってきた。お互いに、味見して、また返す。テレビをつけていないので、外からの音が聞こえる。消防車が、大通りを過ぎて行く。

「乾燥しとるんかな? 」

「まだ早いんちゃうか? ・・・・はあ、洗い物してくるわ。おまえ、先に風呂入れ。」

 食べ終えたあんみつとアイスクリームのカップを取り上げて、俺の嫁は立ち上がる。これといって、何もない。いつも通りの動きだ。食後の一服をして、俺も立ち上がる。風呂に入ってしまうことにした。





 ・・・・クルマ借りてきて・・・前、行ったススキの高原ぐらいまでドライブやな。ほんで、とりあえず、天体観測して寒なったら、どっかで温まってもええし、帰ってきてもええ。クルマでやると、なんかあったらマズイからなあ。・・・・・・

 週末の予定なんてものを考えて、ドライブマップで場所の確認をする。紅葉の季節だから、日中は人が多い場所だが、深夜なら人はいない。都会では見られない等星の小さな星も見られる場所だから、細かい流れ星も見られるはずだ。上を向いているのは、大変だから、ビニールシートに寝転がればいい。毛布とカイロがあれば、どうにかなる。後は、温かいコーヒーか・・・・・・と、考えていたら、俺の嫁が出てきた。

 寒がりの俺の嫁は、風呂上りでも靴下を履いている。ただし、足先だけに、ちょこっとひっかけた独特の履き方だ。

「もう冬やねんなあ。」

「何言うてんね? 」

「おまえが、靴下履きだすと、しみじみと冬を感じるわ。」

 これで、本格的な冬がくると、さらに、半纏を被ってフル装備だ。俺が見ていたドライブマップを、ちらりと見て、俺の嫁は、ふっと口元を歪める。

「なんよ? 」

「いいや、また、俺の旦那は、ゲリラドライブに出かけはんねんなあ、と、気付いただけや。カニか? 」

「それもええけどなあ。まあ、当日まで、お楽しみにしとけ。」

「土曜やな? 」

「そらそやろ。」

「楽しみにしといたるわ。」

「おおきに。」

 閉じられていたドライブマップを持ち上げて、俺の嫁が、「返して欲しかったら、湯タンポになれ。」 と、寝室へ逃げ込んだ。寒がりの俺の嫁は、冬は何もしなくても同じベッドで眠りたがる。できれば、温かくなって眠りたい俺には、何もしないっていうのは修行のようなことになる。

 居間のチェストから、何かをする小道具を取り出して、寝室に向かう。気分を盛り上げるくらいは朝飯前だ。何年も何かしているのだから、タイミングとかポイントなんてものは熟知しているからだ。

・・・・ほな、温めたろやないか・・・・

 寝室に入って、灯りを消すと、盛り上がっているベッドの塊りの横に入りこむ。すると、いつもなら背中を向ける嫁が、こちらを向いて足を絡めてきた。

「やる気やったんなら、ちゃんと誘え。」

「誘たがな。」

 絡められた足の先にある靴下を、足で外していく。手にしていた小道具は、枕の横に置いて、両手で、とりあえず、抱き締める。

「ゴムしてや? 」

「はいはい。色気あらへんわー。もうちょっと、なんかないか? 」

「・・・・いややめて・・・私には主人が・・・」

「棒読みの心篭らない台詞をおおきに。てか、主人は、俺やっちゅーのよ。おら、足広げ。ドロドロにしたるから。」

「おまえのほうが、棒読みじゃ。」

 もう今更なので、やることは淡々としたものだ。平日の夜なので、何かやるとしても、大事にはしない。だから、わざと盛り下げる台詞だったりもする。

作品名:繋がったものは2 作家名:篠義