小説が読める!投稿できる!小説家(novelist)の小説投稿コミュニティ!

二次創作小説 https://2.novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
オンライン小説投稿サイト「novelist.jp(ノベリスト・ジェイピー)」

僕の中のあの子

INDEX|1ページ/1ページ|

 
僕の中にあの子がいるよ。

それがどうしょうもなく嬉しくって

どうしようもなく悲しいんだ。

家に帰ると「お帰り」って僕の中で囁くよ。

だから僕は心の中で「ただいま」を言うんだ。

僕の肋骨の内側で鳴る心臓に合わせて囁くんだ。
「おはよう」、「おやすみ」、「がんばって、がんばって」
何度も何度も−ー本当のあの子に話しかけられない僕に向かって。

本当のあの子はもういない。

なのにあの子は心の中。

僕の手なんて届かない。

抱きしめた時の甘い匂いも、さらさらとした髪も、やわらかな身体もない。

なのにあの子は心の中。

今までで一番近い場所にいる。

僕の内側で笑ってる。

まるで土の下の彼女の一部が

僕の中に残ったみたい。

今日も彼女は僕の中。

肋骨の内側で縮こまる心臓を優しく撫でる。

いつもと同じ優しい声、いつもと同じ優しい笑顔。

両手を口の横にメガホンみたいに当てて

はにかみながら僕に言うんだ。

「がんばれっ、がんばれっ、生きて」って。

部屋で膝を抱えて目を閉じて、ずっとずっと、自分だけを見ている僕に。

今日もあの子のお墓参りに行けなかった僕に。

お葬式にさえ、行けなかった僕に。

彼女がもう居ないこと、まだ認められていない僕に。
作品名:僕の中のあの子 作家名:刻兎 烏