あーすしぇいく
「なんで、このクソ暑いのに、これ? 」
嫁が借りてきたのは、なぜだか灼熱のマグマ地獄のようなラストシーンの映画だった。普通、こういう季節なら海モノとか雪とか涼しいもんを選ぶやろうと、俺はツッコミをいれる。
「いや、ただ単に、このラストシーンが好きでな。見たなっただけや。このおねーちゃん、綺麗やろ? 」
「そこかい? その脇役のねーちゃん見たさに借りてきたんかよ? 」
映画を鑑賞しつつ、蒸し鳥を食べる。あっさりしたものなら、口にするだろうと、酢の物とかカルパッチョとか用意したのだが、温かいものも必要だから、これだけ蒸した。タレも生姜をきかせてある。それらを、口にしつつ、俺の嫁はラストシーンを見て微笑んでいる。こいつの問題点は、見たいとこしか見ないということだ。
映画館なら我慢するが、DVDだと、チャプターで選んで、そこだけチョイスする。まあ、大概は、俺も一緒に観ているので、それでも構わない。この映画、ものすごく評判になったヤツで、俺がどうしても観たいと、俺の嫁を連れて行ったヤツだった。結局、嫁もおもしろいと言って、三部作をコンプリートした。
麦茶を、ごくりと飲んで画面に目をやっている嫁は、口元を歪めていた。
華やかな結婚式のシーンだ。
これが、ラストではない。ここから、最後までは、まだあるのだが、ここが一番気に入っているのだろう。
「結婚式したいか? 」
「どあほっっ。そんな恥ずかしいことできるかいっっ。」
実は、そうではない。結婚した二人の表情が好きなのだ。幸せそうな顔が、俺の嫁は好きだ。
「野菜食べや? 水都。」
「わかってる。・・・・ええな、このねーちゃん。」
「せやな。おまえ、たまに乙女ちゃんやんな?」
「たまにでよかったやろ? 終始、乙女やったらきしょい。」
「まあ、確かに。」
そんなことを言い合っていたら、グラリときた。うちは、ハイツの二階だから、それほど揺れはしないのだが、それでも結構、揺れた。大したことはないだろうと、俺は思ったものの、激しくなったら、俺の嫁を机の下に放り込もうと考えていた。すると、俺の嫁が画面から目を離して俺に声をかけた。
「花月。」
「なんよ? 」
「・・・俺、酔うたみたいや・・・・身体が揺れてるねん。」
ヘラヘラと笑いつつ俺の嫁は、その揺れを楽しんでいる風情だ。麦茶で酔うヤツがおったら、俺はこの目で見たいわいっっ、と、ツッコミを入れたら、揺れは治まった。
DVDを停めて、すぐにテレビに戻したら、速報が流れた。俺の住んでいるとこは、震度3やから大したことはなかったが、500キロほど離れたとこは、震度6やったらしい。
「地震かいな。紛らわしい。」
「水都さん? そんなに眩暈すんのかなーー? 」
「いや、おまえと知り合う前は、しょっちゅうやったから。」
俺の嫁は、人生をかなり投げ出して生きているので、俺と知り合う以前は、栄養失調なんて、しょっちゅうだったらしい。
・・・・・よかった。餓死する前に知り合えて・・・・・・・
俺と、こういうことになってからは、それはないはずだ。なんせ、俺が日々、メシを作って食わせている。
「とりあえず、もうちょっと食え。」
「てか、地震は、もうええからDVDに戻せ。ええとこやったのに・・・・・ちょっと前からな。」
普通は、被害状況とか余震なんかの情報を確認しようと思うものだが、俺の嫁は、そんなことに興味はない。それより、綺麗なおねーちゃんが観たいという欲望に忠実だ。
「・・・・まあ、大したことはあらへんからええわ。」
俺も、さほど興味がないから、DVDに切り替えた。万が一、震度8以上のやつが来て、ハイツが倒壊しても、別に構わないとは、俺も思っている。自然にだけは、抵抗のしようがないし、倒壊したら、俺の嫁も一緒に潰れるから遺していく心配もない。
・・・・・どうせやったら繋がってるとかのほうがええかな・・・・
と、考えたのは内緒だ。