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上田トモヨシ
上田トモヨシ
novelistID. 18525
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ブロッコリー・オンザ・皿

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オレはブロッコリーが大嫌いだ。

何が嫌いって、それはお前、気持ち悪いじゃないか。あの緑色の小さな粒がこれでもかと言わんばかりに密集しているところとか。青虫みたいな臭い(青虫の臭いを嗅いだことがあるかと言われれば、答えはノーだ)がするところとか。どこまでが可食部なのか分からないところとか。

思い出しただけでも悪寒と鳥肌のオンパレード食材ナンバーワン。むしろ食材を名乗ることすらおこがましいようなヤツだ。
さて、どうして急にそんな話をするのかってことなんだが。聞いて驚け、見ても笑うな。

現在時刻は午後一時。昼食を摂ろうとテーブルに就いたオレの目の前に、そいつが鎮座していやがるのだ。
それは正しく、鎮座と呼ぶに相応しい状態だった。
いちおう調理はしてあるらしい。仄かに立ち上ぼる湯気から青虫臭(オレが発見した臭いだ)がぷんぷんする。
だがしかし、これは本当に「調理」の範疇に入れていいものかどうか。オレには確信が持てない。

何故なら(まあつまりオレが、「鎮座している」などと頓狂な表現をした理由もそこにあるわけだが)、ブロッコリーの可食部と思しき部分が、軸から切り離されていなかったのだ。
それはつまりどういった状態なのか。はっきり言おう。

オレの目の前に出された皿には、スーパーでよく見かける状態のブロッコリーが丸々一個、いっそ貫禄すら感じられる風情で載せられていた。しかも軸の部分の葉っぱまで、くたくたに萎れながらブロッコリーの胴回りを飾っている状態で、だ。

真っ白い皿の中心に聳え立つブロッコリーは、まるで数百年の時を経た巨木だ。地球温暖化が深刻化している現代において、自然は大切にしなけりゃならん。
よって、オレはこのブロッコリーじみた木を切り倒すべきではないと思われる。だからもっと真っ当な食い物を寄越せ。

「なに馬鹿なこと言ってんの。兄貴の今日のお昼はそれだよ」

さっさと食べちゃってよ、片付かないから。オレの台詞に応えたのは、自分の昼食はちゃっかりまともな物を用意している我が弟だ。
弟よ、兄ちゃんは地球温暖化を少しでも緩和すべく、本当は食べたいのを我慢してだな。

「じゃあ食べればいいだろ」

その木が一本残ったって邪魔なだけだよとあっさり切り返した弟は、香ばしい胡麻の香りがするチャーハンを食べてやがる。しかもチャーシューやら人参やら、具材がゴロゴロしてるヤツだ。
ちょっと待て。

「ん?、ぁに?」

レンゲを咥えたまま喋るんじゃありません。いや、そうじゃなくてだな。確かに皿は同じだ。二枚セットで販売されていた物を購入したからな。
だが中身はどうだろう。何だか差が開きすぎているような気がするのはオレだけか。

「ふぉれは、兄貴の気のへい」

そうか、オレの気のせいか。ってそんなわけあるか。だからレンゲを咥えながら喋るな。
緑色の物体しか載っていないオレの皿と、黄金色の米が盛られたお前の皿と、その違いは明白過ぎるだろう。誰が皿の上に植樹をしろと言った。

「もう、五月蠅いなあ」

チャーハンを咀嚼しながら喋るなんていう器用な芸当を披露した弟は、言葉どおり鬱陶しそうにしながらも「ある物」を取り出した。

それはまあ、アレだ。いわゆる秘密兵器ってヤツだ。格ゲーとかで言うなら、超必殺技級のアレだ。しかも、オレを黙らせるには十分過ぎるほどの効果を持っていた。
と言うより、どこでそんな物を見つけてきたんだ。絶対バレないように部屋のクローゼットの奥深くに仕舞い込んであったはずなんだが。

「甘いよ、兄貴」

弟はレンゲを左右に揺らしながら、チッチッと舌を鳴らして見せた。
ああそう言えば、この間大掃除するとか何とか言ってたな。その時に見つけたのか。しかしそれは兄の過去の負の遺産として放置しておくべきだった。こんな和やか(とは言い難いが)な食卓に持ち出していいもんじゃないだろうに。

そんなことを考えている間に弟は着々とレンゲを進め、チャーハンを胃の中へと収めていく。オレの目の前には、何の味付けもされていないブロッコリーが居座っているだけだ。
さて、どうしたものか。こんな緑色の木を食べる気はさらさらない。しかし昼食を抜くには、腹が減り過ぎている。そして不幸なことに、オレは天才的に料理が下手だ。

「…あのさ」

「んん?」

やっぱりレンゲを咥えたまま返事をした弟に、どうやって妥協案(それから俺の黒歴史を取り返す方法)を聞き入れてもらおうかと思案しながら、ブロッコリー・オンザ・皿を押しやった。