陰のあいだ1
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繁華街を一本入ったらなんにもないようなとこってあるだろ。
そんなところのさらに路地裏に洋館がある。
もちろんそんなところにわざわざ住んでるわけじゃない。
陰間。
別名、男娼とでもいっておこうか。
まぁ、今はそんな言い方しないけど。
うちの店には掟がある。
客が男であること。
ひどいプレイは禁止。
まぁ、そういう店なのだ。
「またいらしてください」
今日の客は20代後半のサラリーマン。
妻子はいるようだ。
だけど俺を抱きにくる。
世の中って奴は不思議なものだ。
「おかえり、悠麻」
「ただい……っ腰いった。容赦ないんだよなー。あいつ……」
腰を擦りながら奏斗の隣に座る。
奏斗は俺を覗き込む。
「今日も感じちゃいましたか?」
にやり、という顔をして問いかけてくる。
目を反らしながらため息をつき、しゃあねぇだろうがと呟く。
「ちゃんと処理しましたかー?うちのNo.2は。」
扉からのんびり顔を出して俺に問いかける支配人をにらみつける。
「あんなんずっと腹んなかに入れてる趣味はねーよ」
「なら、良かった。」
微笑みながら奏斗は俺に抱きつく。
「…んだよ」
「いや別にー」
ばったーんっ!
扉が開き取っ手くらいの身長の実央が入ってくる。
「たっだいまー」
「「おかえり」」
「今日はどうだったかなぁ?」
支配人が実央の身長くらいまで屈み問いかける。
「んー?なんか頭をなでなでされた。」
「頭だけ?」
「頭だけっ!」
そのまま実央の頭を撫でて支配人は立ち上がる。
「さぁーて今日は営業終了!奏斗くん、悠麻くんに朗報です!来月テストやるよ♪」
静止する。
世界が静止する。
氷つく。
あぁ、俺の人生は・・・
「なんでテストごときでそんな大げさな語りしてんの」
「テストごとき?ごときとかいったか奏斗!俺にとって勉強てのはなぁっ、将来全く役に立ちそうもない無駄知識、そう!トレビアだ!トレビアをなにが楽しくて試され・・・」
「いーかーりゃーく!」
ソファーに座って必死で語っている熱弁を手で静止しやがった、バカやろー。
「まぁ、ともかくテストは慎んで辞退させていただきます」
ソファーに座りながら支配人にを睨み付ける。
「ダメダメ。テストはやるよー、50点以下は追試だから。」
ぬわーー
毎度毎度難しいんだよあのテストのやろう。
「あ、そういやあのテストってどこのテストですか?」
座っているだけだった奏斗が質問する。
「あれは俺の伝手で某有名進学私立高校の特進クラスのテストだけど」
「……んなの、わかるはずねぇ。50点取れたら奇跡だ」
俺がテストが嫌いな意味がわかった。
「前回、僕85点だよ。全教科。」
しれっと言い放つ奏斗に食いかかる。
「なんなんだよ、そのぴったり。俺は全教科合計でそんな点数だったが。そうか奏斗は人じゃないのか。じゃあしょうがないか。」
奏斗がそんな点数を取れる理由を考えていると話を遮られる。
「僕、人だからね。」
「うそっ!」
「支配人がいわないでよ。そこは普通悠麻だろ。」
「あっ、わるいね」
「大丈夫だ、問題ない」
「……もういいです。」
初っぱなからキャラ崩壊しているわけだが、普段は最初の語りのようなテンションだから信じてください。
こんな陰間がどこにあるのかと言えばあると言ってしまえばあるし、無いと言ったらないわけで――――
そんな言い方が通じるのは中学までだといっていた。
まぁ、俺たちは確かに存在している。
ここに確かに存在している。