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大きな猫15

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堀内に連れ出されて、ファミレスの日替わり定食を食べさせられた。適当に箸はつけたがっているのだが、別に、それはどうでも良かった。

 考えているのは、事実がなくても事実になる、という言葉だ。これ、単純に言えば、「嘘をついても、嘘じゃないと言い張ればほんま」 なんて、とんでもない結論になるのだが、そういう意味で堀内は言ったのではないだろう。

・・・・・俺、壊れてる時に、なんかやってるんやろうな・・・・・・

 完全に花月を忘れることがある。その状態になっている場合、仕事に関しては記憶に残っているが、日常的なことは、まったく覚えていない。というか、覚える必要がないから、覚えていないのだ。毎日の繰り返しは、これといって変化するものではない。誰かをひっかけて、一夜を過ごしたり、その相手と結婚の約束をしたり、そういう日常は、俺にとって、なんの変化もないものだ。

・・・・・忘れてる中に、なんかあって、俺を、それから遠去けようとしてる? ・・・・・

 そのために、嘘をついて、それを事実だと摺り返ているのだとしたら、俺には、何も言えない。

・・・・けど、俺は、世話されるばっかりの状態で、あいつばっかりが負担が大きいってのが、許されへんのよ。・・・・・

 そのために、花月が無茶をしてるとしたら、俺は、やっぱり遣り切れない気分になる。盲腸炎で入院して、そのまんま、日常に戻っているとしら、相当、身体には負担があるだろう。そういう時くらい、俺がフォローしたいと思うのは、おかしなことではない。

・・・・・けど、それで、なんかあるから、こうなっとると・・・・・・ほんなら、どうよ?・・・・

 もし、その世話をしている時に、俺自身が、何かを起こしているのだとしたら、そのほうが、花月には負担になっているのかもしれない。

 自分のことだが、覚えていない。それが一番のネックだ。



 ぺしっ



 考え込んでいたら、いきなり頭を叩かれた。すでに立ち上がっている堀内のおっさんがいる。

「わし、予定があるから、そろそろ出るぞ? おまえは、どーするんや? 」

「仕事する。」

「粗方終わったんとちゃうんか? 」

「片付けとかなあかんし、総務のおっさんに、ちゃんとした証拠を渡しといたらんとあかんねやろ? 」

「ああ、溝上に説明しといてくれ。・・・・それから、報告書も書いてくれると、なお有難い。」

「わかった。」

「ただし、期限は明日まで。ずるずると本社に居座るつもりやったら、あかんからな。」

「ちっっ、痛いとこを。」

 俺が立ち上がると、堀内のおっさんは、レジへ向かう。徒歩で来たから、本社は、すぐそこだ。そのまま、おっさんは放置して帰ろうとしたら、後から追いついてきた。

「明後日には何があろうと新幹線に乗せる。そのつもりでおれ。」

「有給もろて、ちょっと遊んでいこかな。」

「・・・・・・どあほ・・・・・わしが働いてんのに、おまえに有給なんかあるかいっっ。」

 今度は本格的に殴られた。つまり、どう足掻こうと、明後日には帰らされるらしい。別に、家に帰らなくてはならないということはない。向こうへ戻ったら、適当にビジホへ逃げ込んでも問題なんてないのだ。どういう結論か、まだ見えないが、とりあえず、それを考える時間が必要だ。



 午後から、報告書の作成をした。かなり膨大なことになるので、時間がかかる。中部と東海の問題のある店舗について、ひとつずつ報告しなければならないからだ。

「ご苦労様。」

 声が聞こえたので、顔を上げたら、社長と副社長が並んでいた。時間がかかるんやったら、面倒やな、と、思いつつ、とりあえず挨拶をする。

「その報告書についてなんだが、少し外して欲しい店舗があるんだが、いいだろうか?」

 副社長が、そう切り出した。まあ、そら、そうやろう、明け透けに報告されたら、悪事モロバレの事態だ。

「申し訳ありませんが、俺は、専務と常務から報告書の提出を求められているので、そちらの意見は聞けません。・・・・・そういうことは、直接、専務か常務に言ってもらえますか? 」

「いや、タダというわけじゃない。何がしかのことは・・・・」

「金? 俺、金には不自由してませんのや。」

 なんなら、クビでもよろしいで? と、鼻で笑ったら、副社長の顔色が変わった。このふたりの関係する店舗が、いくつあるか知らない。そういう事前情報すら寄越さなかったところをみると、沢野は、本気で親族経営の膿を出したいのだろう。それに加担するつもりはない。言われたから、俺はやっているだけだ。

「たかだか、愛人の分際で。」

 乱暴に、使っていたサーバーを副社長は床へ叩き落とした。LAN回線の配線も引きちぎる。けど、そんなもので、事実は消えない。報告書は、ひとつずつ、作った順番に堀内のメールアドレスへ送っている。まだ、三分の一だが、証拠は、俺の脳味噌にも記憶されている。これを壊さなければ、事実は消えない。

 ふんっっと鼻息も荒く、二人は部屋から出て行く。さて、新しいパソコンを用意してもらおうか、と、思っていたら、総務の溝上が慌ててやってきた。

「総務部長、新しいの一台貸してもらえませんか? 」

「いや、もういいです。」

「そうですか。ほんなら、口頭で説明しましょうか? 」

「それも結構です。そろそろ、関西へ帰られたらいかがですか? 」

 朝とは打って変わった態度になっていた。なんかあったのだろう。会社勤めをしていると、理不尽なオーダーも入ってくる。分かりやすい改竄であっても、上から、そう指示されたら、それに従うほかはないからだ。

・・・・・親がカラスを白といえば、白・・・・・か・・・・・

 溝上も、そういうことになったのだろう。

「パソコンも貸してもらえませんか? 」

「はあ、まあ。」

「分かりました。ほな、手書きしますわ。」

 そこいらにあるレポート用紙を手にして、とりあえず、他の店舗の報告書を書く。全店舗ではなくて、問題のある店舗だけだから、数は、それほどではない。ここにある資料さえ運ばれなければ問題はない。面倒なので、店舗ごとに要点を纏め、証拠になる資料をコピーで添付して、同様のタイプのもの同士で纏めておいた。

 その日、堀内も沢野も現れなかったので、深夜までかかって報告書は仕上げた。コピーを何部か作り、それらを手にしてビジホに戻った。

 別れることになったら、俺は、こっちに転勤なんかな、と、思いつつ、携帯を眺めた。着信履歴は、まったくない。

・・・・・別れたら、楽やろうな。けど、楽しいことは、ひとつもあらへんわ・・・・・・・

 「事実でなくても、事実になる」

 それは、花月が吐く言葉を、全部鵜呑みにするということだ。そんなことしたくない。けど、それで、何かを花月が、俺から遠去けているとしたら・・・・・そう考えつつ、ベッドに転がる。

・・・・なあ、花月・・・・・俺、それほど迷惑かけとんのか? それで、おまえ、幸せなんか? ・・・・・・

 たぶん、あのアホは、「幸せや。」 と、笑うだろう。それがわかるから、離れたくない。
作品名:大きな猫15 作家名:篠義