おとうさまなのですね。
虫の鳴き声や鳥の声は一切聞こえない。
しかしたまに枝踏んだときの音や、地面を半分ほど覆っている葉を踏む音が聞こえるような気がした。
どこまでも私は歩いている。一体どれだけ歩いたのか。分からない。
でも出口はもうすぐのはず。出口があるのか確信はなかったが、諦めず歩いていれば、たどり着くはずだ。
ふと、そのとき後ろの方で、枝を踏む乾いた音がした。
人間の足が踏んだ音にとても良く似ている。
特にびっくりもせず、一旦足を止め後ろを振り向く。
「・・・」
少し見回したが誰もいなかった。
「誰かいるのですか?」
返事はない。確かに聞こえたのだが、誰もいないようだ
私は再び歩き始めた。
相変わらず静寂に包まれている。
少し道が登りになり、私は道の通り登っていく。
10メートル程の上り坂が終わると、そこからは下りだったので少し先を見回せられた。
すると下った先の大きく幹が太い木が目に入った。
そこで人間と思われるものが木を見上げている。
「あの・・・」
少し近づいて声を掛けてみたが返事はなかった。
良く見ると、少し足が地面から離れていた。
樹の枝からヒモのようなものが垂れ下がっている。
そのヒモのようなものがクビに繋がっていて、人間を中に浮かしている。
不思議なことに私はあまり驚かなかった。
顔は反対側を向いていたがそれは女性のようだった。
さらに近づいて顔を覗き込む。
ロープに吊られている女性は私だった。
作品名:おとうさまなのですね。 作家名:夜原 信