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大きな猫6

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一週間、と言っても、土日を挟むから、実質は五日ということになる。とはいえ、ワイシャツやネクタイは、コンビニでも買えるが、スーツは、そうもいかない。ワイシャツを三枚、スーツを別に一着、それから、七日分の下着などを用意したら、結構な重量になった。まあ、帰りは、宅急便でもすればいいだろう。翌日、俺が出勤する時間に、迎えのクルマがやってきて、寝惚けたまんまの俺の嫁は、引き摺られるようにして、連行された。携帯も充電器もあるから、どこにいても、連絡は取れるはずだ。



 帰っても、誰もいないとなると、食事も外食になる。面倒なので、同僚の御堂筋あたりと飲み屋なんてことになったりもする。

「なんや、奥さん、出張なんか? 」

「せやねん。物足りひんのよ。すること、無くってさ。」

「え? 普通、命の洗濯タイムと違うか? 」

「そうなんやけどさ。当たり前すぎてな。・・・・俺、嫁がおらんと生活潤わへんらしい。」

「かなんなあー、そんなに見せつけんでもええやないか。」

 実際、手間のかかる嫁がいないと、とても暇だ。食事とか部屋の温度とか、生活環境を整える必要がないとなると、やることがないのだ。それらを鑑みた場合、より依存しているのは、俺? という結論さえ導き出されたりする。

「ほんで、俺と飲んでるわけかいな。かなんなあー。」

「おまえかて、彼女は、どーしたんよ? 」

「ああ、なんか、今、忙しいらしいねん。」

 御堂筋の彼女は、流行りの言葉で言うと、腐れ女というヤツで、男同士のホモ話が好きという、けったいな人だ。それで、実在する俺と嫁について、いろいろと探りを入れてきたりするが、御堂筋が適当に止めてくれているらしい。

・・・・・別に、変わらへんと思うけどな・・・・・・

 ノンケだった俺から言わせてもらうと、別に、これといって、普通の夫婦と変わるところはない。最近は、どちらも働いている夫婦が多いから、子供のいない夫婦だって、俺らと似たようなもんだろう。まあ、違うのは、俺の嫁が些か壊れていて、楽しいところかもしれない。



 毎晩、電話はいれている。毎日、「もう、飽きた。うざい。うっとおしい。」 という、呪いの言葉が耳に届く。声だけでも聞かせていれば、俺の嫁も元気ではあるらしい。

「どこが、研修やねんっっ。いきなり、中部の仕事させられてるんやぞ? 研修なんかあらへんやんっっ。実習やんっっ。」

「・・・・うーん、ガンバっっ、俺の嫁。」

「じゃかましいっっ。なんで、ここまで来て、本気モードやねんっっ。」

「メシは? 」

「食べてる。でも、美味ない。」

「土日は帰れるんか? 」

「帰る。絶対、帰る。俺の忍耐力が折れるから帰る。」

「はいはい、帰って来い。・・・・俺も、なんかさみしいわ。」

 俺のしみじみとした言葉に、一瞬、沈黙した俺の嫁は、ふう、と、これみよがしに息を吐いた。

「みやげ・・・・・買おて帰る。」

「うん、おおきに。」

「もう寝る。」

「うん、おやすみ。」

 携帯を切らずに、そのまま聞いていると、小さな声で、「花月のあほ、ぼけ、かすっっ。さみしんは、一緒じゃっっ。」 と、罵っている声が聞こえる。それから、「帰りたいなあ。」 と、言いつつ携帯は切れる。たぶん、俺の嫁は、俺が聞いているのを知らない。

・・・・こんな可愛いとこ、知ってるんは、俺だけなんやろーなー・・・・・・

 十年は、かなりの時間だ。お互い、傍に居るのが当たり前になったから、たまに離れると寂しいと思う。仕事だから、仕方がない。俺が、出張することもある。こういう時に、お互い、どれだけ、相手がいることが幸せなのかを考える。

・・・・金曜日、迎えに行くって、どーやろう。どうせやったら、家やなくてもええんやないか・・・・・・

 ふと、思い立って、そんなことを考えた。金曜日に、レンタカーでも借りて、ぶらぶらと週末をドライブするのは楽しいかもしれない。別に、家に帰らなくても、顔を合わせればいいのだから、そのほうが早く逢える。金曜日の仕事の予定がわかったら、メールで連絡しておこう、と、思っていたら、意外なことになった。

「え? 木曜から東京? 」

 翌日、課長に申し渡されたのは、東京での研修だった。これといって、重要ではないのだが、顔は出さなければならないというヤツなので、比較的暇にしていた俺が指名された。

「木金で、研修と懇親会。解散は、金曜の夕方や。適当にレポート書いて出してくれたら、それでええ。頼むわ。」

「まあ、よろしいけど。」

 レポートが、ちょっと面倒だが、それ以外は、有難い内容だ。嫁と合流するのなら、ちょうど新幹線で二時間という場所なのだから、大変有難い。向こうで、レンタカーを借りるなり、こっちへ、同じ新幹線で帰ってくるなり、なんでもありだ。

作品名:大きな猫6 作家名:篠義