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思想に微睡む5つの言葉 遙か3

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05 掴めるものでもないけれど、追いかけてみたくなる瞬間がある。



 世界にたくさんの命があるのと同じ数だけの運命がある。
 元々は運命とは変えることのできないものだ。
 しかし、望美が時空を越えることのできる白龍の逆鱗を手にしたことで、望美の運命に関わる命の運命を変えてしまうことができる。
 それは決して簡単なことでもなく、また決して幸せになれるとも限らない運命になってしまうこともある。
 運命を変えてしまったが為に、変えられてしまう、変わってしまう運命もある。
 望美はその全てを把握はできない。
 そして、それが人が絡むことであれば、感情もまた変わってしまうことになかなか気がつけない。
 望美もまた『白龍の神子』という前に、一人の人間なのだ。
 人の心を読める訳でもなく、見失ってしまうこともある。


「人の心がわかったらいいのにって思わない?」
「は?」
 望美の突然の質問に、歩いていた仲間たちは一斉に振り向いた。
「突然なんだ?」
 九郎が訝しげに見る視線を受け止めつつ、望美は足を止めた。
「心の中にある人の気持ちがわかったらいいのになって、思っただけです」
 すると、弁慶が小さく笑った。
「ですが、わからない方が面白いと思いませんか?」
 それはそうですけど、と望美は小さく呟きながら、言葉にした気持ちをありのままに伝えた。
「全部じゃなくって……ただ、その時だけっていうか、その瞬間だけ考えていることがわかればいいなって思うんです」
「それでも、あまり気持ちのいいものでもないな」
 九郎の隣で景時が頷いた。
「確かにねぇ。何というか、人前で裸になっちゃう感じだろうね」
 人の心を暴かれるということが、自分を隠すものがなくなってしまうということと同じ。
 望美は大きく頷いた。
「あ、確かにそうですね。……やっぱりわからない方がいいな」
「覗かれる相手にとっては、ですよ。もちろん、僕は望美さんの心の全てを知りたいと願ってしまうけれど」
「姫君の心の中を覗いて、俺のことでいっぱいにさせてやるよ」
 望美は真っ赤になりながら朱雀の二人を睨む。
 そんな反応に二人は笑い、望美の前を歩く。
「神子」
「はい、先生」
 後ろを歩いていたリズヴァーンが望美の隣に立った。
「人の感情もまた、その運命の中にある」
「……はい」
 リズヴァーンの言葉に望美は神妙に頷いた。
「運命が変わるように、また感情も変わっていくのだ」 


 望美の運命も、自分の思いから大きく変わった。
 いろいろな瞬間に選ぶ選択肢はたくさんあった。
 しかし、望美は運命を変える選択肢を選び、その運命を見つめる決断をする。
 運命は時空の中に流れ、その流れを望美は見ることができる。
 重ねた時間と思いは積み重なり、同時に望美の中から『時間』という感覚が失われていく。
 運命を変える為に使う『逆鱗』の力の副作用というべきものだろう。
 しかし、望美はそれを恐れない。
 二度と大切な仲間たちが傷つかない為にも、失わない為にも、逆鱗の力を使い続ける。
 決して全ての運命を掌握できる訳ではない。
 望美が見る運命の中で、突き動かされる感情に触れた時、望美はその感情に翻弄される。
 けれど、自分の周りを流れる運命を変えることができるならばと選択した瞬間に、望美の運命は決定されるのだ。
 そしてまた、望美は時空の狭間へと向かう。
 歪んでいく運命を見届けるために。