青果店
酔った頭は、ゆらゆら揺れながら、中で結婚式のスピーチを幾度もリピートしている。
途中まで手にあったはずの重い引き出物は既になく、代わりにどこかの店の看板が手にある……ところではっと気付いた。
ここはどこだ?
わたしは熱を持った頭を二、三回振る。
頭の中で重い鉛が二、三度移動したように眩暈がした。
どこかで犬が鳴いた。
白い壁に寄り掛かって、寝ころんでいた道路からようやく体を離す。視界の隅にドアホンが映った。押そうとして、ふと空を見上げる。
見事に早朝だった。
方角などわからなかったが、どう考えても朝日が黒い宵闇をうすくうすく白に引き延ばしている。周りを見渡しても人っ子一人としていない。
どうやら見知らぬ住宅街に入り込んだらしい。狭い路地だったが、向こうの空のよく見える高台で眼下には白い建売住宅が並んでいた。
さてこんな高台があっただろうかと、白い壁とインターホンの主を見上げてみた。やはりこれも建売の家らしく、他と同じにクローン人間の顔で鎮座している。
さてどうしようと、首元のネクタイを緩まそうとしたが、それはとっくにどこかの店で失くしていたようだ。ワイシャツと着慣れないスーツ姿、とどこかの看板を足元に転がしてわたしは途方に暮れた。