箱根の熱い冬
最強の留学生と言われるマトンバを花の2区に擁(よう)し、上位進出を狙っている。
こちらからは臙脂(えんじ)にWのユニフォーム。
早稲田大学は昨日、OBの瀬度氏が激励に来たという事ではりきっている。
鉄紺のユニフォームは東洋大学。山の神を擁し、今回も優勝を狙う。
12月も半ばを過ぎると、我が大学の合宿地・箱根茶寮がある、芦ノ湖周辺は急ににぎやかになる。
それまで、北海道などで強化合宿をはかってきた各チームが仕上げの時期を迎え、現地入りしてコースに慣れさせるのだ。
無論、山登りの5区を走るのは唯一人。しかし、誰もが共にコースを走り、汗を流す。
彼らが走っているのを見ると我々も走りたくなってくる。
だが、先日指導に来て下さった宗健先生は、常に風を感じ平常心を保てと、正座をして落ち着くように言われた。
どこからか太鼓の音も聞こえて来る。「ちからー、ちからー、中央、中央―」
ああ、あれは最多の優勝回数を誇る中央大学だ。
と。目の前を驚異的なペースで走っていく一団があった。
古(いにしえ)より選ばれし物だけが身にまとったといわれる紫をチームカラーにした駒沢大学だ。
インカレ5000mで13分台の選手をズラリと並べ、今年も優勝候補と言われている。
我慢できなくなった私は立ち上がり直訴した。
「先生、我々も走りましょう!」
だが、返ってきた千宗健先生の答えは冷たく・・・。
「走るのは彼らに任せておきなさい、早苗さん私達は茶道部なんですよ。それよりも着付けをしっかり覚えなさい。帯が垂れ下がっています」だった。
(おしまい)
作品名:箱根の熱い冬 作家名:おやまのポンポコリン