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再会

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冬の寒さもいっそう厳しさを増した、師走の暮れ。12月25日。日曜日。

先月末に山中湖へツーリングへ行って以来、ハーレーに火を入れていなかったので今日は軽く走りに出かけることにした。3週間も経っていたのでベッテリーの具合など心配だったが、チョークをひっぱりセルスイッチをまわすと、相棒は元気よく排気音を冬空に響かせた。

「このまま冬眠させるつもりだったのかよ?」

久しぶりに1200ccの肺から放たれる『肺気ガス』からはそんな皮肉を言われた気もした。
軽く市内を走って慣らし、調子を確かめる。プラグが湿っているせいか、クシャミをよくしたが、しばらくするとそれも収まり、バイパスの直線でアクセルを煽ると、100kmまで一気に吹け上がっっていった。調子は上々のようだ。

「待たせてすまなかった」

信号待ちでガソリンタンクをポンポンと叩き、声をかけた。

ツーリングルートはいつもの天竜川沿いの堤防だ。往復すれば50km近くある。
例えるなら犬の散歩のようなものだ。いや、馬の散歩か。

信号がほとんど無い堤防の直線をひたすら北へ走る。
最近になって警察の取り締まりも増えたようだが、この寒さの日曜日にその姿は見受けられなかった。ボーナスの支給も終わった事だ、サボりモードにでも入ったのだろう。これだから公僕とやらはタチが悪い。

しばらくすると、浜松に合併してしまった旧浜北市を抜け旧天竜市へ。
そのままUターンして帰ろうと思っていたのだが、時間にも余裕があったので、天竜市内に来たついでに、専門学校時代からの10年来の友人が勤める市内のサークルKに寄ることにした。

彼は名古屋の専門学校で出会ったクラスメイトだ。卒業した後も、同郷ということもあってちょくちょく連絡をとっている。
東京へ就職した僕を含めた他の仲間達と違い、家族とも絶縁状態で15歳から一人身でやってきていた彼は、資金面の難しさもあってか地元に帰っていった。元々、絵を描くのは勿論好きなのだが、それほどプロ思考がなかったのも理由の一つだ。そして、地元でコネのあったサークルKにアルバイトとして勤め、今年で10年程になる。

常識では考えられないかなり波乱万丈の人生を歩んでいる彼は、自分の中では特別な存在だった。
一度別れた前の彼女とよりを戻すように説得してくれ、よりを戻すキッカケを与えたのも彼だ。3年くらい前になるだろうか。結局は別れてしまったが、自分よりも若いのにとてつもなく人生経験も、そして女性経験も積んでいる彼の説得は的確だったと今でも思う。話も特別面白かった。
まぁ、彼女と寝てるところを母親と再婚した義父に襲われて手斧で枕を真っ二つにされ、神社に逃げ隠れ境内の下で一夜を過ごしたなんて経験は積みたくもないが。

このサークルKはツーリングルートであり僕の父の実家の側という事もあって、浜松市内から離れているが年に何回も立ち寄っている。
しかし、彼は基本夜勤なので会える機会はあまりなく、寄る度に「彼によろしく言っておいてください」と店長や古株の店員さんに言い残し、店を後にしてした。

バイクを駐車場に止め、店内を見まわすと、やはり彼はいない。生存確認をする意味も含め、商品を陳列していた店長さんに声をかけた。

「芝田君は元気でいますか?」

そう尋ねると「ああ、家にいるだろうよ」とのこと。どうやら無事に生きているようだ。
「どちらさんだね?」と聞かれたので、名前を伝え「元気でなによりと伝えてください」と伝言を言い残した。
ほぼ毎日出勤しているので、一応「明日の出勤は?」と尋ねてみたところ「朝5時だね」と言われたので「また来ます」と、缶コーヒーを1本購入し、店を出た。

煙草を1本、深く吸う。夕刻の天竜市の気温は浜松市内よりもかなり低く感じられた。煙草を掴む手が震える。彼の事を思った。思えば元彼女の事を相談して以来、2年間近く音沙汰がない。
昨年の夏のツーリングで携帯電話もメールアドレスが入っていたメモリも死んでしまったのが大きな原因だ。
夜勤の彼から連絡が入るわけもなく、月日は流れた。今でも立派にオタクをしているのだろうか。そういえばキリスト教に入信したと言っていた。教会への礼拝もかかしていないそうだ。信者と結婚させられそうになったとも言っていたな。彼らしい。
彼は優良店員であったので店長から新店舗の店長役を頼まれたらしいが、面倒くさいのは嫌だと断り、現在もこの店の夜の顔に徹している。

僕が知っているだけでも彼とのエピソードは昼夜を明かせるほど事欠かない。
専門学校時代にあった面白い、というか、凄い話しが一つある。
彼のアパートへ正体不明の大量の荷物(ガラクタ)が偽の宅配便業者によって配達され、警察を呼ぶまでの事態に発展したことだ。ちなみに警察を呼んだのは僕だ。
そりゃ、壊れた電子レンジや、家具、食器、天板だけのこたつ、ジェラルミンの巨大な旅行カバンなどが、一度にリビングを埋め尽くすほど送られてきたとなれば、通報するだろう。恐くなった彼は僕に電話で助けを求めた。
死体でも入ってるんじゃないかと、彼はジェラルミンケースをバールとノコギリで破壊してしまっていたが、その中身も、洗濯もされていない男性用下着や服、ネクタイだったりと、謎だった。
警察に連絡を入れる前に、タウンページを使い近隣のヤマトや、佐川、福山、他、ほとんどの宅配業者に連絡を入れた。
『こういった配達記録はないか?』と。
そう、普通なら手元に残る「宅配伝票の控え」が存在していなかったのだ。
その事に、そして身に覚えの無い大量のガラクタ荷物が届いたことにも疑問を持たずサインだけしてしまった、社会常識が少し欠如した彼が悪いが、寝起きでテンパっていたというんだから、仕方ないといえば仕方ない。
結局、荷物の出と所在は掴めず。
アパートに来た警察官2人も、事件性が無いということもあってか、面倒くさそうに対応してくれた。
大した調べもせず「なにかあったらまた連絡して」と去ろうとしたので、僕は「証拠物件として引き取る手配を取ってくれ」と、担当警官の名前を聞き出し、部署への直通の電話番号も入手した。
その後、無事に荷物は引き取られ、後日、警察によって処分された。と思う。
専門学校の仲間も呼び出し、「珍事件」として一晩語り明かした。今考えても「謎」のエピソードである。
その他にも1回で作ったカレーを1ヶ月間水で薄めて食ったヘングリーなエピソード。
「3日なにも食ってない。なにか食いもん食わせてくれ」と学校で言うので、僕のアパートに招きキャベツの野菜炒めをご馳走したら「死ぬほど美味い」と本気で感動していたエピソードも微笑ましい出来事だ。

今ではさすがに夜勤ともあって給料はべらぼうで、貯金は数百万にふくれあがっているそうだが、物欲のない彼は今にも潰れそうな、家賃1万円のオンボロ借家に3万円の原付バイクと共に住んでいる。

煙草を吸い終えた。
店を去ろうとヘルメットをかぶりバイクに跨ったところ、店長さんが出てきて僕に声をかけた。
「アパート知っているよね? 顔出してきなよ」と。
「ああ、はい」
曖昧に答えた。寝ているのを起こしても悪い。少し悩んだ末、電気が点いていたら顔を出すことにした。

作品名:再会 作家名:山下泰文