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悪夢

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「やあ、みなとちゃん、今日も可愛いね? 」

「ありがとーございますぅー」

・・え? ちょお待てや、なんで、俺、こんな格好してんの?・・・・・

 人間は、夢を見る。自分が夢の中に沈んでいるのと、それを客観的に見ているのと、いろいろ千差万別に見るものだ。たぶん、今、俺は、夢を見ている。だって、俺と思われるヤツが、スクリーンみたいに向こうに見えている。だが、その姿が、異常だ。ミニスカで、首にはリボンで、胸元が見えそうなキャミという、かなり際どい姿で、キャバクラ嬢という設定だ。だのに、俺は男のままだ。他のキャバクラ嬢が、可愛い女の子で、それなのに、俺のことを同様に扱っている。

・・・・いや、夢やから、ええんか・・・この際や、おねーちゃんの胸でも触ってみようかなー・・・・・

「今日もキバってや。さあ、仕事やでぇー。」

 せっかく触れそうだったのに、マネージャーの声で、カワイ子ちゃんたちは、四方に散ってしまった。

 場面転換して、俺は、店の奥の事務室の前だ。いきなり、バーンと扉が開いて、そこから現れたのは堀内のおっさんだ。

「なんや、今の話聞いとったんかいな? しゃーないなあー、売れっ子のみなとちゃんやけど、南港でコンクリート抱いてもらわなあかんな。」

・・・うわぁー、本物より本物らしいわ、おっさんっっ・・・・・

 堀内のおっさんは、本物のやくざですら、一歩引くぐらいの極道ちっくなおっさんなので、台詞が似合いすぎていた。

「せやけど、ものは相談や。みなとちゃんが、わしの愛人さんになってくれるんやったら、南港はなしや? どないや? 好きなもん買おたるし、ええもん食わせたるで?」

・・・あー、この台詞、昔、俺が言われてたヤツやわ。・・・・

 扉の前から、俺は室内へ引きずり込まれた。そこで、ニヤニヤ笑っているのも、堀内の部下で、やっぱり、極道ちっくなおっさんたちだ。

「くくくくく・・・そんなに泣かんでもええがな。ちょっと気持ちようなるクスリ、入れたろうな。ああ、ああ、そんなに怖がらんでええ。ちくっとするたけやから。」

・・・うわ、いきなりヤク打つか? それ、あんまりやないか?・・・・

 で、俺が暢気な感想を呟いた瞬間に、ちくっと腕が痛んだ。そして、目の前には、堀内のおっさんの顔がある。どうやら、スクリーンモードから当事者モードにチェンジしたらしい。へへへへへ・・・と、やらしそうに笑っている顔が近寄ってくるので、もう、ええ、早よ、夢から覚めろ、と、俺は起きようとするのだが、うまくいかない。びりっと音がして、キャミが破れた。

・・・え?・・こんなシーン、俺、お望みやないってぇぇぇぇぇぇ・・・

 うわぁーと目を閉じたら、ごんっと衝撃で目が覚めた。ベッドから転がり落ちたらしく、俺は床に転がっている。

「・・おまえ・・・『やめて』 は、まあええわ。せやけど、『おっさんっっ、いやや』 は、なんや? 」

・・・・ん?・・・・・

 声のするほうに振り向いたら、俺の旦那がベッドの上から、じと目で睨んでいた。かなり不機嫌な様子だ。

「なんで、抱き寄せただけで、『おっさん、いやや』 とか『やめて』とか言われなあかんのか説明してもらおうか? 」

 あー、なるほど、実際に触られていたから、生々しかったのか、と、俺は理解した。たぶん、寝る前に読んでいたミステリーの影響で、サスペンスミステリーな夢を見たらしい。

「あのな、夢見ててな。俺、キャバクラ嬢やったんよ。」

「はあ? おまえ、頭、大丈夫かぁー? 水都。」

 覚えている限りの夢の内容を、旦那にしゃべったら、相手は笑い転げて、「腹イタイっっ。死ぬ、笑い死ぬっっ。」 と、酸欠でもがいた。

 そら、現実に、俺の身体は、鶏がらみたいなガリガリで、キャミとかミニスカがお世辞にも似合うとは到底、考えられないわけやから、笑われるのは無理もない。

「・あはははは・・・・めあほや・・あほがおる・・・んや、そういう格好してエッチしたいんか? 願望か? 水都。・・・ぷぷっっ・・・あははははははははは・・・・ありえへんっっ・・・・・ははははははははは。」

「そうやねん、なんで、そんなこと・・・・・・・あー、イヤなこと思い出したわ。」

 たぶん、ミステリーと不快な用件が結びついたのだと、気付いた。来月、本社会議に出席しろ、と、堀内から電話で命令されたからだ。行きたくない、つまり、顔も見たくない、ということが、ずっと頭の片隅で、ひっかかっていたのだろう。

「来月、出張せなあかんねん。たぶん、それやな。原因は。」

「出張? 」

「本社で会議あるらしい。俺が行く必要はないはずなんやけど、たまには、浮気しよおやないか、と、おっさんが言うてたんや。」

「なるほど。ほんで、ヤク使こおて強姦てか? よっぽど危機感あんねんなあ。」

「いや、危機感はないで? さすがに三十半ば越えた俺は、おっさんも論外やろう。」

 たぶん、イヤなのだ。出張に行くのも、ここを離れるのも。それで、余計に、そういう夢で印象を悪くしているのだと思う。グッジョブなんか、迷惑なんかよくわからないが、俺の右脳は、そういうことを夢にしたと思われた。

「行かんといたらええねん。」

 旦那は、ニカニカ笑って、「当日、おまえ、風邪もしくは腹痛で病欠な。」 と、悪知恵を働かす。まあ、それでもええか、と、俺も、「せやな。」 と、頷いた。

「せっかくの黄金週間やのに、湿気た夢見んなよ。」

「おまえが、ここから動かれへんようにしとったんじゃっっ。」

 どこへ出かけても、人ごみの黄金週間なんてものは、家でのんびりするほうがいい。そういうわけで、我が家では、この休暇は寝暮らし生活になる。だが、それだって限界はあるわけで、そろそろ、散歩ぐらいはしたほうがいい。

「明日から仕事やから、そろそろ、動こうか? 花月。」

「おう、駅前まで、ミスドでも買いに行こうか。」

「・・・ミスド?・・・甘いもんはいらん。」

「ほな、美松の生菓子で、どや? 」

「あほ、こどもの日が終わったから、店休みじゃっっ。」

「ほおう、えらい、商売のこと、わかってはんねんなあ? 水都はん。ほな、確かめてみようやないの? 」

「おう、望むところじゃっっ。休みやったら、おまえ、今晩、コロッケ作れ。」

「わかった。受けて立ったらあ。その代わり、店、開いてたら、おまえが、茶碗蒸しと天ぷら作れ。」

 たわいもない賭け事をして、ふたりして起き上がった。どっちが勝っても、家で手作りであることには違いがない。



作品名:悪夢 作家名:篠義