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梅雨

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最近の日本の梅雨は、熱帯のスコールのようだ。ざっと降って、さっと上がる。その間さえ雨宿りできれば、避けられるものなのだが、生憎と、うちの帰り道に雨宿りできる場所がない。

 引き戻せば、コンビニがあるのだが、面倒だと、そのまま濡れて帰った。寒い季節ではないから、スコールのような激しい雨は気持ちよい。空が怒っている様な激しい雨に、服もどんどんと濡れていく。髪の毛から滴る雨が口元に流れてくる。シャワーを被っているような勢いだ。

 川の土手に白いガクアジサイが咲いていて、しばらく、それを眺めていた。激しい雨に翻弄されて倒れそうなのに、しなやかに枝を揺らしているだけで倒れたりしない。ひたひたと花を叩く雨粒も、流されるままに流れていく。

 そんなことをしていたら、途中で雨は上がった。どんよりとした曇り空だが、さっきより雲の高さはある。やれやれ、と、スコールを堪能して歩き出した。



「花月、バスタオルくれぇー」

 玄関で叫んだら、「どあほーーー」 という怒鳴り声と共に、花月が現れる。頭のてっぺんから足先まで、ずっくり濡れた俺を見て、もう一度、「このあほがっっ。」 と、怒鳴りつつタオルを渡してくれた。

「気持ち良かったわ。あそこのガクアジサイきれーやな? 」

「・・せやな・・・それより、おまえのほうがきれーやで? 」

「三十越えたおっさんに言う台詞やないと思うけどな、それ。」

「ずぶぬれのおまえって、なんかエロいもんがあるんやて。」

 まあ、とりあえず、貴重品を抜いておこうか、と、花月が、俺のスーツの内ポケットかせ財布とか定期とか文庫本とかを引き抜いた。多少、湿っているが、そこまでの被害にはなっていなかった。それらを、廊下に放り出すと、ニヤニヤと花月は笑って、俺を担いで風呂場へ連行した。





 些か壊れている俺の嫁は、梅雨から夏にかけては雨は濡れるものだと思っている。避ければいいだろうに、そのまんま濡れて帰ってくるのだ。

 スーツもネクタイもずっくりと濡れて、雫が滴っている。髪の毛からもぽたぽたと雫が零れた姿というのが、なんだか、ひどくエロいと思う。

 雨で下がった体温を上げるために頬が上気しているし、髪から流れてくる雫で唇が濡れている。それを無意識に舐めあげている舌が、なんだか、ひどく気分を盛り上げるのだ。

 壊れていない普通の人は、そうなる前に、どうにか濡れないように努力する。例えば、家まで走るとか、どこかへ雨宿りするとか、そういうことで濡れないようにするだろう。だが、俺の嫁は、まるで濡れることが楽しいのか、と、思うぐらいに盛大にやってくれる。ひんやりと冷えたスーツごしに感じる身体を、風邪をひかさないために、シャワーで温める。だが、脱がせる前にかける。それから、そのシャワーの下で、じっくりと脱がせるのだ。濡れた衣服ほど脱がせにくいものはない。それをじっくりと脱がせてつつ、ぼんやりしている俺の嫁の唇も温める。肌を滴るお湯を舐めるようにしていると、別の意味で頬が上気していく。

「・・・もう、いやや・・・熱い・・・」

「まだ脱がせてないから、無理。」

 ネクタイを外し、ワイシャツのボタンを全部外す頃には、すっかり、俺の嫁も出来上がっている。梅雨の日の我が家だけの楽しみ。





作品名:梅雨 作家名:篠義