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お題・石鹸
三角帽子の少年が口から石鹸を出した。
ころんとしたくりーむ色の丸い石鹸。
コロッケの匂いを消すためだ。
なぜなら少女はコロッケ作りの天才だったからだ。
少女からはいつもコロッケの匂いが漂っていた。
だから少年は口からぽんぽんと石鹸をはきだす。
いくつもいくつも。
「コロッケなんか」
と少年は言う。
「コロッケなんか」
少年は石鹸の海に溺れていく。
その間にも少年の口からは次々と石鹸が溢れだしてくる。
静かに泡立ちながら。
「コロッケなんか」
…嫌いだ、と言った少年の口が消えた。
目が消えた。
鼻が消えた。
足が、手が、内臓が、骨が、肉が消えた。
コロッケの匂いが、少女の匂いが消えた。
…石鹸の海に残ったのはもう少年の台詞だけだった。
「でも大好きだったんだ。」