とある哀しい恋の話。
【とある哀しい恋の話。】
あの時、貴方が怖くて、次に待ち受けてる事がどうしようもなく怖くて、本当に逃げなくなった。そこにたとえ、愛があったとしても。
だから、だから私から、掠めるように口づけました。逃げるように、拒むように。
あの時貴方はどう思ったのでしょう。そんな私に期待したのでしょうか。愛されていると、幸せだと。
小説の世界じゃないんですもの。誰も”読者”に成り得ない。登場人物の考えている事なんて、誰にもわかるはずがないのですよ、ねえ。私も貴方も、所詮配役済みの捨て駒。
今でも貴方は信じているのでしょうか。あれは私の愛だったと、想いだったと。いいえ、いいえ。そこに愛はなかったのです、想いですら。怖かった、逃げたかった、だけど、逃げるすべが見つからなかった。
だから、だから、
逃げるために。拒むために。
先手必勝、私の勝ちでしたね。
結局私は、その温度を掠めてすぐに逃げ出しました。
あたかもそこに、愛があるかのように
あの時の頬を染めて瞠目した貴方を、私は忘れません、忘れられません。
この事実を貴方が知ることも、私がお話しすることも、地球が終わるその時にだってありはしません。
だから私はこの罪をひとり抱えて生きていきます。
忘れる事を赦さないあの表情の記憶、私の罪の象徴と共に
貴方を最後まで欺きながら、私という存在が終焉る、そのときまで
今でも貴方は信じているのでしょうか。
そこに、確かに愛はあったと。
end.
作品名:とある哀しい恋の話。 作家名:永華