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夏風邪

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暑いとへばるのは、いつものことだが、連日の猛暑に夏風邪までひきやがった。くしゅくしゅと鼻を鳴らして、メシを食っている同居人というのは、いかがなものだろうか、とは思う。存分に汗を流させようと、クーラーは切って、窓を開けたら、だらだらと俺まで汗を流す結果となった。

「・・・クーラーいれようや・・・・」

「あほっっ、風邪は汗流して放り出すのが一番や。味噌汁もちゃんと飲めよ。あと、焼きナスも食え。」

 あまり食の太いほうではない同居人は、弱ると麺類しか食べなくなる。それではいかんだろう、と、本日は、焼きナスを煮浸しにして、その上から山芋をすりおろして冷たく冷やした一品と、茗荷の味噌汁と、熱いごはんを用意した。

 帰宅した同居人が、すごい顔をしたのは、言うまでもない。このくそ暑いのに、熱い味噌汁って、何事なんやっっ、と、文句まで吐いた。だが、焼きナスの煮浸しを一口、口に含むと、愛想を崩した。

「・・・うまい・・・」

「そうやろそうやろ、俺が愛情をこめたもんが、美味くないはずがないっちゅねんっっ。」

 遅い時間に帰ってくるから、食事量は少ないので、一品と漬物ぐらいで、事足りる。けど、その一品を、どんなものにするかで、相手の体調は変わるのだ。

「昼間は、何食ってるんや? 」

「あーざるそばとか、そうめんとか、ぶっかけうどんかなあ。」

「それで、おまえ、日がな一日、クーラー浴び取ったら、風邪もひくっちゅーんよ。たまに、温かいもんも食え。」

「きつねうどんとか? 」

「・・・・どーしても、麺類か? 麺類しかあかんのか? 」

「いや、なんか米は、喉につまるやないか? 」

「なら、他人丼でも木の葉丼でも、スプーンで食べられるやつにしたら、どないや? 」

「あれはあかんわ。熱すぎて、食うのに時間かかる。」

 うちの同居人は、究極に猫舌なので、そういうものは、他人様の倍くらい時間がかかるのだ。やっぱり、昼の食事も考えたほうがええんかなあーと、俺は考える。だいたい、麺類だと野菜は、まったく摂取されないからだ。

「弁当したろか? 」

「はあ? 」

「だって、そうでもせんと、栄養のバランス悪すぎるやんか。」

「野菜ジュースは飲んでるで? 」

「あのなー、みなと。そういうのは吸収悪いねんて。」

「あと、サプリメントっていうのもあるで? 」

「いや、だからな。そういうのに頼るのは、ほんまはようないねん。」

 食事に関しても、非常に投げ遣りな同居人は、たいていが、この調子だ。それで、あほしか引かん夏風邪を引くのだと気づいてくれと、俺は言いたい。

「別に、心配せんでも、晩御飯は、ちゃんとしてるからええやんか。」

「でも、風邪ひいとるよな? おまえ。」

「これは、たぶん、ちゃうで。おとつい、俺、クーラーのタイマーすんの忘れて、朝まで冷え冷えの部屋で寝てたからや。」

「ああ? おまえ、何しくさっるんじゃっっ。 」

「いや、原因は、おまえにある。おまえが、風呂場で、人のことを、さんざんに弄るから疲れ果てたから沈没した。」

「え? あああああーーーーそれなんかあーーっっ? 」

 おとつい、ついつい、風呂場で悪戯した。シーツの洗濯が面倒だったから、そこでいたしてしまったのだ。

・・・・原因、俺やんけ・・・・・

「えーっと、ごめん? 」

「小首傾げても、かわいないから。・・・・だから、そんなに心配せんでもええ。」

 焼きナスを平らげて、残った山芋と出汁を、ごはんに流し込み、同居人は、おいしそうに食べて笑った。




作品名:夏風邪 作家名:篠義