夏風邪
「・・・クーラーいれようや・・・・」
「あほっっ、風邪は汗流して放り出すのが一番や。味噌汁もちゃんと飲めよ。あと、焼きナスも食え。」
あまり食の太いほうではない同居人は、弱ると麺類しか食べなくなる。それではいかんだろう、と、本日は、焼きナスを煮浸しにして、その上から山芋をすりおろして冷たく冷やした一品と、茗荷の味噌汁と、熱いごはんを用意した。
帰宅した同居人が、すごい顔をしたのは、言うまでもない。このくそ暑いのに、熱い味噌汁って、何事なんやっっ、と、文句まで吐いた。だが、焼きナスの煮浸しを一口、口に含むと、愛想を崩した。
「・・・うまい・・・」
「そうやろそうやろ、俺が愛情をこめたもんが、美味くないはずがないっちゅねんっっ。」
遅い時間に帰ってくるから、食事量は少ないので、一品と漬物ぐらいで、事足りる。けど、その一品を、どんなものにするかで、相手の体調は変わるのだ。
「昼間は、何食ってるんや? 」
「あーざるそばとか、そうめんとか、ぶっかけうどんかなあ。」
「それで、おまえ、日がな一日、クーラー浴び取ったら、風邪もひくっちゅーんよ。たまに、温かいもんも食え。」
「きつねうどんとか? 」
「・・・・どーしても、麺類か? 麺類しかあかんのか? 」
「いや、なんか米は、喉につまるやないか? 」
「なら、他人丼でも木の葉丼でも、スプーンで食べられるやつにしたら、どないや? 」
「あれはあかんわ。熱すぎて、食うのに時間かかる。」
うちの同居人は、究極に猫舌なので、そういうものは、他人様の倍くらい時間がかかるのだ。やっぱり、昼の食事も考えたほうがええんかなあーと、俺は考える。だいたい、麺類だと野菜は、まったく摂取されないからだ。
「弁当したろか? 」
「はあ? 」
「だって、そうでもせんと、栄養のバランス悪すぎるやんか。」
「野菜ジュースは飲んでるで? 」
「あのなー、みなと。そういうのは吸収悪いねんて。」
「あと、サプリメントっていうのもあるで? 」
「いや、だからな。そういうのに頼るのは、ほんまはようないねん。」
食事に関しても、非常に投げ遣りな同居人は、たいていが、この調子だ。それで、あほしか引かん夏風邪を引くのだと気づいてくれと、俺は言いたい。
「別に、心配せんでも、晩御飯は、ちゃんとしてるからええやんか。」
「でも、風邪ひいとるよな? おまえ。」
「これは、たぶん、ちゃうで。おとつい、俺、クーラーのタイマーすんの忘れて、朝まで冷え冷えの部屋で寝てたからや。」
「ああ? おまえ、何しくさっるんじゃっっ。 」
「いや、原因は、おまえにある。おまえが、風呂場で、人のことを、さんざんに弄るから疲れ果てたから沈没した。」
「え? あああああーーーーそれなんかあーーっっ? 」
おとつい、ついつい、風呂場で悪戯した。シーツの洗濯が面倒だったから、そこでいたしてしまったのだ。
・・・・原因、俺やんけ・・・・・
「えーっと、ごめん? 」
「小首傾げても、かわいないから。・・・・だから、そんなに心配せんでもええ。」
焼きナスを平らげて、残った山芋と出汁を、ごはんに流し込み、同居人は、おいしそうに食べて笑った。