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コミュニティ・短編家

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お題・怪談×映画


 若い男女が古びた映画館に入る。
 男はキザにステッキを振り回し、女は赤いジャケットを着て真っ赤な口紅をひき、涼やかな瞳で男の後に続く。
 まばらな客席。
 上映開始のブザーが響く。
「ねぇご存知?この映画館には怪談があるらしいのよ」
「階段?」
「怪奇なほうの怪談」
「あぁ、怪談。…どんな?」
「この映画館でね、ナイトシアターを見ているとね、怪奇現象が起こるのよ」
「じゃあ今まさに起こっちゃうじゃないか。まいったなぁ」
「まったくね」
「おや、スクリーンが真っ暗になったよ」
「間じゃない?」
「随分と長い間だね」
「…」
「おや、君、目が金色になっているぞ」
「…」
「あ、立ち上がるのはやめたまえ。他のお客さんに迷惑だ」
「…」
「やぁ、おかしいな。他の客も立ちだした。皆心なしかゾンビの様な風体」
「♪スリラースリラー」
「ハハハ。これは痛快痛快」
「やめた」
「なんだ、もう終わるのか。つまらない」
「だって躍りがいがないんですもの。今度はあなたが怪談やってよ」
「そうだな。こんなのはどうかな」
「あらやだ。口裂け男なんて流行んないわよ。何だか汚いわ」
「そうかなぁ。あ、ちょっと縫い合わせておくれよ」
「縫い合わせる道具がないもの」
「女なら裁縫道具の一つでも持っておけよ」
「あら、いやぁね。これだから古くさい思想の男っていやなのよ。ホッチキスでとめてやる。ばちんばちん」
「あっあっ。これじゃあ体裁が悪いな。ジョーカーみたいにしたかったのに」
「紅いリップと白粉ならあるわよ」
「しかしね、ホッチキスで口元を止めた輩はそういないよ。これじゃあ怪談沙汰だぜ」
「それは痛快ね」
「おや、君腕が外れているよ」
「あらやだ、さっきの男に違いないわ。私が席についた時からじとじとといやらしい目で私を見ていたもの。嫉妬に狂った男っていやねぇ」
「まったくだ。あっ君君、血が垂れているよ。僕の白いスーツについてしまう」
「みみっちい男ね。はいはい。今ひっつけるから待っててね」
「あ!君裁縫道具持ってるんじゃないか」
「だって私の美しい腕がホッチキスでとめられるなんてごめんですもの」
「ひどい話だなぁ。人の頬はホッチキスでとめておいて。僕には映画館よりも君が怪談だよ」
「女ってそういうものよ」
 映画が終わる。
 男と女は席を立つ。

作品名:コミュニティ・短編家 作家名:川口暁