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GUNSLINGER BOYⅩ

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君が好き





見つめ合っていたのは一瞬だったのかそれとも数秒だったのだろうか。


「帝人・・君・・? どうして・・・」

呆然とした表情で立ちつくす臨也はずぶ濡れで、雨に降られているせいか元々白い肌がわずかに青ざめて見える。
もしかしてあれからずっと自分を捜して走り回ってくれていたのだろうか。

頭の中が混乱している。
先ほどの臨也と静雄の会話の内容などほとんど消化できていない。

大切?心配?
何が、誰が、どうして・・・・
だって、だって自分は嫌われているのに。
なんで。
なんで・・・・

臨也がふらふらと歩み寄ってきた時、帝人はこのまま臨也の胸に飛び込みたい、背を向けてまた逃げ出したい、という二つの衝動に同時に襲われ身動きがとれなくなっていた。
もしくは担当官の傍にいなくてはならないという義体としての本能からの命令と、自分はこの人の傍にいてはいけないという自我との葛藤。
絶対の存在のはずの担当官に短時間のうちに全く反対のことを言われたために帝人の頭の中は何が本当なのかどちらを信じていいのか分からず完全に混乱してしまっていた。

距離が縮まる。
怖い。
だって、このまま戻ったら、また・・

傘を持っているのと逆の手を掴まれた瞬間、とっさにそれを振り払おうとしたが力が入らなかった。



「・・・さ、帰ろう」




抑揚の無い声で言われた言葉にもうつむいて嫌々と首を振るのが精いっぱいだった。
やはり直接声を聞くと逆らおうとする力が制御される。それでも、このまま戻るわけにはいかない。いかないのだ。
声が震える。

「離して・・ください」
「っ・・・・」
「僕は・・戻れ、ません。だから、離してください・・・」

ぎゅっと、腕を握られる力が強くなった。怒っているのだろうか。
相反する脳内の命令が強くなって頭がくらくらする。

「・・俺の言うことがきけないの?」

その言葉が担当官の言葉に従うように洗脳されている脳髄に響く。
それが悔しくて悲しい。
僕はもうこの人の傍にはいられないのに。

「離してください・・・っ」
「何でっ! 何で逃げようとするんだよっ!!」

苛立ったような怒鳴り声が降ってきた。逃げ出したい。
震える唇をうごかしてもなかなか言葉にならない。

「・・だ、だって・・・僕は・・・・」
「何」
「っ・・・ぁ・・・・・」
「早く言えよ」

言いたくない。
心配して捜しに来てくれたのが本当だとしても、これを言ってしまったら本当に気味悪がられる。嫌われる。
言わないまま逃げて消えてしまいたい。



「い・・・臨也さん・・が、僕とのフラテッロを、解消して・・・他の義体と組むって、僕の記憶から、臨也さんのことが消えるって、そう、言った時・・・・嫌で、嫌で・・怖くて、頭の中が真っ白になって、それで・・・・・・」






そうなるくらいならあなたを殺して僕も死のうって、本気でそう思ったんです。

僕はあなたを一瞬でも傷つけようと、殺そうとしました。
僕はもうあなたの傍にはいられません。









言い終わると、また涙で視界が曇り始めた。
臨也は何も言わずに腕を握る手を離した。その沈黙が痛くて怖くて、でももう逃げるような気力も残っていない。
あるのは大好きな人に拒絶されることへの恐怖と絶望感だけだった。

僕は人形だ。
人を殺すために存在する生きてる人形だ。
この人を好きなこの気持ちも都合のいいように作られたまがいもので、
でも、それなのに、そのはずなのに、

なんでこんなに辛いんだろう。


ただしゃっくりあげながら泣き続けていると、不意に臨也の手が頬に触れてきた。
そのあまりの冷たさに驚いて顔をあげようとした瞬間・・強く引き寄せられたかと思うと邪魔だというように傘を奪われ、崩れ落ちるかのように臨也が抱きついてきた。




作品名:GUNSLINGER BOYⅩ 作家名:net