少年とオオカミ
そこに音は存在しない
月光によって銀色に輝く雪が、
すべての音を呑み込んでしまった。―
『空が変わってきた。もう少しで降り出すぞ、急げ』
「分かってる、これでも急いでる」
『その割には、足が進んでいない』
「うるさいな…お前みたいにスイスイ行けないんだって」
―音のない世界―
―月明かりを頼りに進む少年、案内役は白いオオカミ―
―急かされる少年はふと足を止めた、オオカミは訝しげに振り返る―
『おい、ぼさっとするな』
「もったいないじゃん」『・・・・は?』
「だーかーら、もったいないって言ったんだよ。」
『意味が不明だ。』
―少年はぼやき、呟く―
「だってさーこの景色を今、この瞬間、独り占めしてんのは俺とお前なんだぜ?他にだれーもいない。この景色を見れる奴は。だったら、堪能しとこーぜ、って話だよ。」
『そんなことを言っている暇があったら黙れ、黙って進め。聞き返した私が莫迦だった。』
「ツマンナイ返しだなぁ・・・」『否、これは正常なツッコミというやつだ』
「別にどっちでもいーよ。それにしても、この景色無くなるんだろ?もったいないなぁー」
『お前がソレを持っていかなければ無くならずに済む話だ。』
「んーそれは無理。これやんなきゃ俺、意味ないし」
『…ならば行くぞ。早く済ませた方がいい、私にとっても、お前にとっても』
―少年は自分が足跡だけが残る、なにもない、雪の海を振り返った―
―少し悲しそうに笑うとまた、進み始める―
―彼らがどこに、何を、何のために、何故、行くのか。それはまた別のお話。―
題:少年とオオカミ 作者不詳