It is God
ちょうど今くらいの時代。遠い遠い宇宙の天蓋方面で、一匹の神様が退屈そうに大きな欠伸をしてその馬鹿面をさらしていました。一部の乱れもない歯並び、口内炎に悩まされたことのない滑らかな舌、荒れを経験したことのない唇、ムキムキでもボン、キュ、ボンでもないけれど見る者を惹きつけてやまない身体のライン。どれをとっても鼻もちならない完璧さで、見ているだけでイライラしてくる風貌でした。きっと友達なんて一人もいないに違いありません。
「だって神様じゃもん」
ほら、これです。何か都合が悪くなると、自分は神だから、で誤魔化すのです。結局は問題の棚上げにしかなっていないのですが、神様は素知らぬ顔です。いや、きっと神様自身も気づいてはいるのでしょう。なんてったって全知全能なんですから、気付いていないはずがないのです。鼻くそをほじって呼吸だけして永い日々を過ごしている自分は、どうしようもなく甲斐性がなく、反論する気力さえ持てない頭空っぽさんで、三日坊主どころか三分坊主、いや三秒坊主の根性無し、そこに怠け癖が加わるんだからどうしようもない奴なんだって。
「むっ」
あ、今、ピキッってきたみたいですよ、フフ。あんな、透かし面していてもちゃんと聞く事は聞いているようです。あの耳はお飾りじゃなかったんですね、何だか安心してしまいました。ところで腰にまで届くほどの見事に無駄な福耳ですけど、あれ邪魔じゃないんですかね。何かの拍子に、ぶちっ、って切れたりしないんでしょうか。ちょっと確かめてあげましょう。こう、クイ、クイ、と、お、なかなか手堅い感触ですね。どうせだからこぶしばりにしておきましょうか。
あ、ほどいちゃった。かなり固く結んだんですが、頭を軽く揺らしただけでほどいちゃうなんて、あれですね、ゴッドパワー使いましたね。ほんとノリが悪くて困ります。そもそもこんな事にゴッドパワー使うとか、エコロジーって言葉知っているんでしょうか。まあ、神様だから知っているんでしょうけど、あ、まさかとは思いますけどあえて無視しているんでしょうか。それともエコロジーなんて下々の考えだからと歯牙にもかけていないとか。ああ、通りで自然環境の保全が遅々として進まないわけですね。
「むぅ」
あ、今、ちらりとこっちを見ましたよ。それなりに堪えたようですね。
「あのね、君達さ」
ちょ、なんか神様しゃべりはじめましたよ。やっべー、超レアなんですけどー。
「……お前たちをできるだけ我に近づけたつもりなんだけど、こう、もうちょっと我を見習うとかさ、ないの? その無責任な批評とか、我は割とどうでもいいんだけど、さ、その、見苦しいというか、うん。もうちょっと考えてほしいかなー、と」
うわ、何でしょうかこの教師然とした物言い。地味に腹が立ってきますね。そもそも自分に似せた生物をたくさん作るとかどれだけナルシストなんでしょう。たとえるなら、今でいうフィギュアマニアが自分のフィギュアばっかり作ってるってことですよね。うわー、さすがにこれは引きますよね。
ぷちっ。
おや、神様の何かが切れたようです。
「う、うがーっ!!」
神様は怒りを爆発させました。
神様を中心に真っ白な光が四方八方に放たれ、世界の全てを覆い尽くしていきます。世界は消え去り、たくさんの星々の源が漂う暗黒の世界になりました。これから何億年もかけて、たくさんの星が生まれてくるでしょう。
そう、これが後に、知的生物によって名付けられる宇宙の起源、ビッグバンの正体なのです。