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ゆきのふるまち

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恋って何だろう。
ミュージックプレイヤーから流れてくるラブソングを聴きながら、恋について漠然と考えてみる。
雪の積もっている駅前の温度計はマイナス3度。待ち人はまだ来ず。
マフラーに顔を埋めて肩をすくめる。いくら雪国に住んでいるとしても氷点下の気温でひょうひょうと立っていられるほど、人間は寒さに強くない。
あ、これ、シャレじゃないからな。


「はー、肉まん食いてぇ」


赤くなった手をこする。こんなに寒いんなら手袋してくるべきだったな。
待ち合わせ時間から5分を過ぎたところで諦めて駅舎の中で待つことにする。あったかい飲み物でも買おうそうしよう。
肩をすくめたまま駅舎の扉を左に引いたところで改札口から声がした気がして、耳からイヤホンを外す。


「鶴!」
「遅い」
「ごめん!この雪だはんでばっちゃさ雪かぐの押し付けられてまってさ。鶴と約束あんだって言ったんだどもやねば行がせねって言うもんだはんで」
「んだが」
「んだよ!こいでも俺一生懸命雪片付けてきたんだがんな」
「そらお疲れ様」


ほらちょっとこれ、と差し出された両手は冷たく少し湿っていた。疑ってないから。俺も押し付けられそうになったけど弟にその役目を譲り渡して出てきた。
鶴ってのは俺の名前、というよりあだ名。鶴田って苗字を略して鶴って呼ばれてる。
そんで今日待ち合わせしてたのが柏。俺の高校の同級生。現在高3の俺らは1年の頃に同じクラスになって仲良くなった。俺らの通う高校は小さい学校で、そんなに頭がいいわけでもなく運動もそんなにできるわけでもないごく一般的なこの町の3つの中学から生徒が集うちょっとばかし緩めな学校。


「それじゃあ行ぐが?」
「待って、なんがあったかいの買ってっていい」
「・・・頑張ってきたらしい柏さ奢ってやるかな」
「まじで!ありがとう!」


今日の目的地は俺らの住む街から3駅ほど先にあるこの辺で一番の繁華街。特にこれといって明確な目的はないのだが、久しぶりの連休だし遠出してみるか、と帰り道に柏と話したのがきっかけだった。


「え゛!」
「ん?」


今のご時世には珍しいことに、最寄駅の切符売り場は券売機システムではなく対人システムである。駅員さんに目的地を告げ、その分の代金を支払う。他の地域では最近見られないらしいが、俺にとっては普通。だからたまに大きなターミナル駅に行くと緊張する。
俺が販売機で2人分の飲み物を買っていると切符を買いに行っていた柏が奇声を発したので何事かと見に行くと呆然とした柏が立っているだけだった。


「五能線・・・運休だって・・・」
「は!?別に普段だば汽車止まるんた雪でもねべさ」
「川内のほうで事故あったんだど。向こうはこぢよりも雪降ってで、復旧までまだ時間かがるんだって、あど3時間くらいだば待だねばまいねって」
「3時間か・・・待づが?」
「待だねよ。別に行ぐのは今日でねしてもいべし、今日は俺んちか鶴んちにすんべ」
「俺んち汚ねぇがら嫌だ」
「んだば俺んちだな。今帰ればだばばっちゃが餅焼いでらびょん」
「でも柏んちここがら遠いんだよな」


じゃあ泊まってく?と笑いながら柏が言う。明日は学校だから冗談だって分かってるけど、この寒い中家に歩いて帰ることを考えたら泊まっていきたかった。しかも柏の家は駅からは遠いが俺の家より学校には近い。


「そういえばさ」
「なした?」
「俺こないだ稲垣さんさフラれたじゃん」
「んだっけか」
「いや、しゃべったし!つーか鶴さ一番最初さしゃべったし!泣ぎながら電話かげだのに覚えでねどか言ったらぶっ飛ばすし!」
「あー、あれ稲垣だったのか。俺てっきり市浦さんのことかと思ってだわ」
「市浦は後輩だがら!そういうのでないから!」


柏という男について話すときに、これも忘れてはいけないひとつだと思う。
恋多き男。
プレイボーイというわけではない。惚れやすく切り替えの速い男なのだ。
つまり、すぐ人を好きになる。告白する。でもフラれる。そしてまた好きな人が現れる。彼女がいたことも3年間のうちで数回あったが、どういうわけかまたすぐフラれて俺に電話をかけてくる。この間隣のクラスの稲垣に告ってフラれたらしいがそんなの柏においては今まででありすぎて俺はそこまで覚えていられない。


「でもこれ鶴のせいだんた気もするなぁ」
「俺その辺なんも関与してねぇべさ」
「クラス違うけど俺結構鶴と一緒にいんじゃん?だからだよ」
「悪い全くわがんねぇわ」
「そういうこど」
「んだがら、そういうこどってどういうこどだんず」
「・・・したがら!俺と鶴が仲いいがら!俺が鶴のこと話すがら!女子にかってあらぬ疑いばかけられでらの!」


あらぬ疑い。
聞き返すまでもなかった。それはもしやあれか、そっち系疑惑か。
そんな話を聞くと今まで付き合った彼女に柏がことごとくフラれてきた理由もなんとなく分かる気がする。それが本当なのかは定かではないけど。


「もしもさ」


その言葉をどうして言ったのか、俺は未だに分からない。


「俺と柏が付き合ったら周りの女子は納得するんだべが」
「すんでねぇの」
「んだば付き合ってみっか」


血迷ったとしか思えない。


「・・・いいよ」


そしてまたこいつも、血迷ったとしか思えない。


「好きな女の子の前で鶴の話ばするぐらいだば鶴のこど好ぎらしいはんで、周りの女子がどった反応するがぐらいの感じで付き合ってみるがな」


裏返った声。


「すったもんでさ」


そしてこっちも、裏返った声。
もし恋というものをこの先俺が実感するとしたら、さっき突然俺の口からあんな言葉が出てきたように、いきなりやってくるものなのかもしれない。
予想外に彼氏?というものができてしまったものの、恋とやらは多分まだ分からない。


「・・・鶴、餅なにで食う?」
「・・・・・きなこかな」


これから分かるのかも、分からない。






作品名:ゆきのふるまち 作家名:蜜井