アイス
そして、こたつから両足をはみ出している同居人の姿。
俺の同居人は暑がりの寒がりなので、ゴールデンウィークまではこたつをしまうことはない。酷い年になると、梅雨頃まで出しっぱなしということもある。それというのも少し涼しい夜に、そのこたつが必要だ、と、言い張る同居人の所為である。
今年は暖冬だったが、それでもこたつにすっぽりと収まっていた同居人は、どうやら日中の暖かさに気づいたらしく、こたつから足を外へ放り出しているのだ。もちろん、靴下も脱いでいる。
「のんきに昼寝かいや? 俺が洗濯干してるっちゅーのにっっ。」
イヤミったらしく文句を吐いたが、起きる気配はない。実は、夕べ、ちょっとばかり無茶をしたので、同居人は腰がおかしくなったのだ。どうにか起き上がれるようになったものの、どうもぎくしゃくしておかしいと言うので、本日の家事全般を、俺が請け負った。
「やっぱ、ひねりで茶臼とかはあかんねんなあ。」
しみじみと、昨日の所業を反省しつつ、となりに寝転んだ。さすがに、労働したのでこたつの中へ入るのは熱いから、外だ。
「・・・おまえなあー・・年を考えてやれよ。アクロバット系はあかんて、俺、前にも言わへんかったか? 」
寝ているとばかり思ったら、起きていたらしい。もそもそと、動いて、同居人の顔がこっちに向いた。眠そうな顔だ。
「言うてたかな。でも、ちょっとひねっただけやで? おまえ、身体硬すぎるんちゃうか? そのうち、面と向かってできひんようになるぞ。」
「そこまで硬ないわ。」
「湿布張り替えようか? もう四時間くらい経ってる。」
「え? 」
どうやら、完全に沈没していたらしい。居間の時計へ目をやって、「うわぁー半日寝てたやんけ。」 と、残念そうに呟いた。
「あ? なんか用事あったんか? 」
「いいや、ないねんけどな。せっかくの休日を寝倒すのは悲しいやないか。」
「て、動けへんくせに、どうすんねん? 」
そう動けなくて沈没しているのである。寝倒す以外に、やることはない。ぐたぐだと喋りながら、湿布薬を張り替える。シャツをたくしあげて、乾いている湿布を外そうとしたら、「いやーん、おそわれるぅぅぅーーーん」 と、鼻にかかった声で、同居人がしなをつくる。とても気色悪い光景だ。
「おそえるかいっっ、こんなへばってる死にかけ。」
「おまえが死にかけにしたんじゃっっ、ぼけっっ。」
「しゃーないやんけっっ。どっかのアホが、連日深夜残業なんかかましよるから、溜まっとったんじゃっっ。」
「あーあー悪かったな。それやったら、どっかで抜くか、風呂で抜けっっ。俺で全部処理すんなっっ。」
「おまっっ、この年になって、なんで風呂で抜かなあかんねんっっ。おまえが責任もって処理するのが筋っちゅもんやろっっ、なあ、俺の嫁っっ。」
暴言とも言える言い合いをしつつ、湿布を張り替える。別に、言いたいことは吐き出せばいいのだ。遠慮なんてするほうがおかしくなる。
「おおきに。とりあえず、お前が俺の旦那やねんから、この身体の回復に誠心誠意こめて世話してくれ。」
「はいはい、させてもらうで。アイスでも買うてきたろか? 」
「ああ、ええなあ。もう、そんなん食べる季節なんやなあ。」
しみじみと、そう言って、俺の嫁は、また目を閉じる。たぶん、一日、寝倒すだろう。今晩は、少し季節を先取りして、そうめんでも出してやろうと、俺は立ち上がった。