カニ
「晩飯を日本海側で食ったら、帰りは深夜になるやんけっっ。明日、おまえも仕事。俺も仕事。」
「うーん、まあ妥協しといたるわ。」
「当たり前じゃっっ。」
途中で、カニを二杯買い込み、そのまま、一般道を通って、高速道路に入る。すでに、夜という時間で、休日でも道路は空いていた。どうにか地元まで帰り着いて、レンタカーを返して、近くのファミレスで飯を食った。
「おおきに、気は済んだわ。」
「こっちこそ、おおきに。すっきりしたわ。もしかしたら、この土日は休めへんかもしれへんから、ストレス溜まりそうやったんや。」
のんびりと帰り道を歩いて、お互いに礼を言った。残業して疲れていたはずなのに、なんだか、別の疲れになっていて、それは、とても心地よい疲れだった。
「日曜くらいは、はよ帰ってこれるんか? 」
「明日次第やな。」
「ほな、日曜は、カニすきにするから、はよ帰れる努力はするように。そうでないと、俺、カニ二杯を、ひとりで消化するから。」
「・・・・消化不良でもがき苦しんどけ・・・・」
「うそやん、うそやん。待ってるやんか、俺の可愛い嫁の帰りを。」
「三十路近い男に、可愛いっていう、その脳みそを、カニ味噌と交換したほうがええぞ、おまえ。」
「照れてる姿が、ますます可愛いで。」
「死んでこい。」
発泡スチロールの箱を振り回している同居人の背中に、蹴りをいれて、無視して、さっさと家に帰った。