「因果応報」
最近、山間部の集落に山から下りて来た、“生物”が家を荒らし、問題になっている。
その生物について、ニュースキャスターや、コメンテーター達は、様々な分析を勝手気ままに発し、それを惜しげも無く画面から垂れ流している。
「最近山での食料が不足しているのでしょうね。それを求めて山から下りてくるのでしょう」
と、キャスターが深刻そうな表情で言うと、
「そうでしょうねぇ。今年は水害や猛暑等、異常気象等が相次ぎましたからねぇ。その影響が色濃く残っているんでしょうねぇ」
と、コメンテーターも頷きながら答える。
この“生物”だが、本来凶暴では無く、今まではこちらから刺激しなければ、攻撃を加えて来る事はなかった。しかしここ最近は、住民に危害を加える事案が多発していた。恐らく、エサ不足がかなり深刻なのだろう。
また、この“生物は”非常に知能が高く、こちらの表情をうかがいながら、行動を予想したかのように反応するため、捕獲に手を焼いていた。
その結果、今まで罠という罠は、全て不発に終わってしまっていた。
「なかなか賢いですなぁ。これじゃあ捕獲は難しいのではないですかなぁ」
集落の住民が落胆したように言うと、
「そうですね。このまま被害が続く様なら、射殺も視野に入れなきゃなりませんね」
と、現場に来ていた地区会代表が事務的に返す。
「でもまぁ、そもそも彼らの住処を奪ったのは、我々ですからなぁ。静かに暮らしていてくれれば手荒い事はせずに済むのですがねぇ」
住民はため息を付きながら言うと、
「我々地区会の管轄するこの地区で、これ以上負傷者を出す訳にはいきません。早く手を打たなければ、我々の威信が失墜してしまいます」
代表は、少し感情的に答える。すると、男性の携帯電話が、けたたましく鳴る。
「なに? 今度は南地区か。分かった、すぐ行く。被害は? ほう、ほう……今度は軽傷者か、分った」
電話を切ると、冷静を取り戻し、代表は急ぎ次の現場に向かった。
――本日昼、またもや被害が発生致しました。今回は軽傷者のみで済んだとの事ですが、負傷者が立て続けに出た事を、重く受け止めた地区会は、この“生物”の射殺指示を出した模様です。では次のニュースです――
この決定が成されたのは、最初の負傷者が出てから一週間後の事だった。
「いいですか。彼等は知能が高いです。言葉こそ理解出来ませんが、こちらの表情等読み行動します。食べ物へ意識が移っている瞬間を狙います」
代表が告げる。その周りには狙撃用の銃を携えた者が三名ほど立っていた。
説明を終えると、皆身を潜め、民家にあの“生物が”降りてくるのを待つ。
一時間程経過しただろうか。山の草木をかき分け、それが下りて来た。周りを警戒しつつ家に入ると、食べられる物を物色している。食料に意識が集中している為、こちらには全く気付いていない。
「今だ!」
代表のその声と同時に、銃を構えた三人が引き金を引く。
辺りに乾いた音が響く。
一瞬の静けさの後、一斉に鳥が飛び立ち、止まっていた時間が、進みだす様な錯覚に囚われる。
銃弾を受けたそれは、静かに崩れ落ちる。彼らは一斉に駆け寄ると、急ぎ死亡を確認する。
そして、地区会の代表は、亡骸を見つめながら告げる。
「確かに、お前たちの方が先にこの地に住んでいた。それを、外の星から来た我々が住処を奪った形だ。しかし、それも遥か昔の話だ。もっとも、それはお前たちも、我々に奪われる前は行なって来た事だろう? 弱い生き物は淘汰されて行くものなのだよ」
そう告げると、代表は二つに割れた舌を出し、醜く飛び出した目玉を細め、ケタケタと笑う。
その夜、射殺のニュースが流された。
――ニュースをお伝えします。先週から負傷者を出し続けていた“生物は”射殺された模様です。射殺されたのは、『ヒト科のニンゲン、成獣でオス』との事です。この生物は、二百年程前、この星で最も栄えていた生物だったとの事です。
しかし、我々が移住した事により、徐々に数を減らし、今では数十頭しか生息していない品種の為、今後国は捕獲に力を注ぎ、保護していく方針だと言う事です。では次のニュースです――