夢の国な夏。
不満ばかりが募る。
「なぁ、やっぱりおかしいと思うんだけど」
俺は横にいる雪香に話しかける。
「え、何が?」
雪香は売店で買ったミッキーのアイスを食べながら、子供が金曜ロードショーを訳も分からないまま見ているような顔で答えた。
「財政的なあれだよ」
僕がそういうと、今度はアニメ番組がニュースの特番でつぶれた子供のような顔で雪香が言った。
「そんなのは今関係ないよ! ここは夢の国だよ! ドリームカウントリー! アメリカンドゥリーム!」
雪香が言った通り僕たちは今、夢の国にいる。今は夢の国の住人だ。
その証として、頭にはネズミ耳カチューシャをつけている。これをつけないと、このネズミ耳の本家の仲間にされるらしい。
というか、それはどうでもいい。
「アメリカンドゥリーム関係ないだろうよ。ていうかな、話と色々違うだろ」
「そういう話はここを出てからにしよう、な!」
「なんだよ、急に慣れ慣れしいな」
僕がそういうと雪香は、僕の腕に抱きつく。
「だって私たちカップルじゃん」
「そうだな。だけどカップルなら、シャツにアイスをくっつけたりはしないだろうに、このヤロウ」
「ヤロウって何だよー、私は乙女だよ」
「ならまず、このアイスを離せっ」
俺はそう言って、雪香を腕から引き剥がす。
「うおー、お気に入りのシャツが・・・・・・」
アイスのくっついていた部分が、アイスのオレンジ色い少し染まっていた。
お気に入りの白いシャツが台無しだ・・・・・・・。
「どんまい。なら、あそこでTシャツ買ってお揃いの着ようよ」
「えぇ、恥ずかしいわ。ていうか、結局俺が金を」
「いーよ、私が出すから」
そう言って雪香は僕の腕を引っ張ってその店に入って行った。そして店で、夢の国オリジナルTシャツを雪香が買って、トイレで着替えた。
なんだこれ、やっぱり恥ずかしいぞ。
シャツの中で笑っているネズミが、僕を嘲笑しているようだった。このネズミめ。次会ったら、ボコボコにしてやる。
ネズミと見えない戦いを繰り広げてトイレを出ると雪香は既に外で待っていた。
「遅いじゃん。ブラでもずれた?」
「そんなものは付けてないし、付ける気ない。ていうかテンション高いよ」
「あげぽよ!」
「めんどくさいなー」
「行くぞー!」
雪香は僕の腕を引いて走りながら、新しい玩具を買ってもらったかのような子供の顔で言った。