推理の鍵 ―殺人編―
謎多し
「ここで今回の謎の提示」
出入り口の扉に背を預けて立っている音羽警部に背を見せながらも私は資料室の窓に付いているクレセント錠を開けたり閉めたりしていた。
「一つ目、この密室の謎。
二つ目、南城さんが何も音を聞かなかったこと?
三つ目、南城さんが見た袋。
これぐらい?」
クレセント錠すべてを見ると私は振り返って音羽警部を見た。
音羽警部はいつの間にか腕を組んでいた。
「まぁ、それぐらいだろ」
音羽警部は唯一ある机に近づいた。
「何と言うか謎だらけだな」
溜め息をつきながらも私は窓から離れると被害者、比果 道音さんが倒れていた場所の近くに立った。
「それよりもちゃんと黒畑さんと美代さん呼んだの?」
苛つきながらも私は振り返り、後ろにいた音羽警部を見た。
「……呼んだんだけどもな。ん、噂をすれば」
急に音羽警部は資料室の出入り口を見た。私もつられてみた。
「すみません。ちょっと遅れました。私が黒畑 水梨です」
しっかり者の様な感じがする女子――黒畑 水梨は頭を下げて後ろにいる初老の男を見た。
「会議が少し長引いてしまって、すみません。美代 大祐です」
「いえ、こちらがお呼びしましたので」
一瞬にして笑顔を浮かべた音羽警部はお辞儀をした。同じように私も軽くお辞儀をする。
「じゃあ、座ってお話をしましょうか」
音羽警部は机の中に仕舞われている椅子の前に立つと私を含める全員が椅子に座った、
「えっと、じゃあちょっとした質問からいきますね」
そう言いながらも私は指を組み合わせた両手を机の上にそっと置いた。
「まず、美代さん。殺害が起こった日、様子がおかしかった人とかいましたか?」
再び美代さんは首を横に振った。
「美代さんは……これぐらいの袋を知っていますか?」
私は空中に横が五センチ、縦が八センチぐらいの長方形を書いた。
美代さんの表情は特に変わらない。
「知りません」
「後日、この部屋に入って消えていた物などはありましたか?」
私は適当に事件に関係ないことを含めながらも聞く。
「……カッターが消えているんですが」
私は音羽警部に図書室で渡された資料に付いていた写真を思い出した。確か殺害に使われたカッターナイフの事だろうか。
「カッターナイフは何故、この部屋に?」
「欲しい資料だけを切り抜きたいので置いてあったんです」
「部屋にいて何か物音とか……悲鳴、とか聞きませんでしたか?」
美代さんは首を横に振った。
「特には……」
じゃあ、と言いながらも私は黒畑さんを見た。
「黒畑さんは帰ってきてから何か聞きましたか?」
「いいえ。帰ってきてすぐに南城さんとメイドさんの悲鳴を聞いて駆けつけましたから」
話通りだと思いながらも私は次の質問に出た。
「黒畑さんが部屋に来たときに南城さん、それにメイドさんはどこにいましたか?」
「……比果さんの近くだったと思います。でも、あんまり憶えてないんです。…その、ちょっとそのとき目眩がしてしまって…」
「……倒れたの?」
きっと今の私は表情がないんだろうと思う。なんと言うか昔の感覚が戻ってきているかもしれない。
黒畑さんは首を横に振った。
「その、椅子に掴まったので倒れたりは…しなかったんですが。警察の人が来るまでは現場からあまり出ないようにと言われたんですがその、部屋で休ませて貰いました」
「……じゃあ、あまり憶えてないかもしれないんですが机の上に何が置いてありましたか?」
「憶えていません」
私は次に何を質問しようかと考えたが口から出たのは声ではなく息だった。
「質問は以上だと思います。ありがとうございます」
私はそこで笑顔を浮かべて頭を軽く下げた。質問は終わったが逆に謎が増えただけのような気がするのは私だけなんだろうか。
「それではこれで」
「また、質問ならいつでもどうぞ」
出入り口で頭を下げた美代さんと黒畑さんを見送りながらも私は溜め息を吐いた。
「昔の感覚が戻ったか?」
うすうすそれに感づいてはいた私だったけども。
「……なんか音羽警部に言われると苛ついてくる」
私は目を細めて音羽警部を見たがすぐ近くにあった通学用鞄を近づけた。
「再び今回の謎の提示
一つ目、南城さんと美代さんが何も音を聞かなかったこと。
二つ目、南城さんが見た袋。
三つ目、密室を作ったくせに何故か、現場にあったカッターを凶器に使ったこと。
謎が増えたなぁ」
通学用鞄から学校で貰った資料を取り出すと再び内容を読み始めた。
音羽警部は手帳に何かを書き込んでいたがすぐにその手帳を閉じるとポケットに入れて口を開く。
「……お前はどこまでその謎を解いたんだ」
決して資料から目を離ささない私は視線をまっすぐ前に向けたままの音羽警部の問いに答えた。
「三つ目の密室の謎は解けたけどもカッターを使った謎、それに一つ目の謎、二つ目の謎の謎はわかんない」
勘が鈍ったことに溜め息をつきながらも私は首を横に振った。
「まず、第一に何故密室を作ったのかがわかんないんだよね」
私は椅子の背もたれに背を預けると天井を仰ぎ見て、顔を隠すように資料を載せた。
「袋って言うとヤクでも入っていたのかもな?」
冗談半分の音羽警部の言葉に対し、私は軽く鼻で笑いながらも体の状態を戻した。
「被害者がヤク中だと言いたい……」
「どうした?」
言葉を留めてまで私は一つの仮説に付いて深く考え始めた。
「音羽警部、お願いがあるんだけども――」
私は仮説を証明するための材料集めを口にする。
作品名:推理の鍵 ―殺人編― 作家名:古月 零沙