あい
部活で遅くなった学校帰りに、どうせならと少しだけ遠回りをして、イルミネーションを見に行った。
「きれいだね。」
なんとなく口をついた言葉は、そんな安っぽい言葉で、やっぱりあたしは隣で、そのきれいなものを眺めている君を意識していたんだと思う。
薄い口唇がそっと口を開けば、白い息が出て、それもきれいだ、なんて思ったあたしは、かなりの重症かもしれない。
「人間はね、」
白い息が宙に舞って、彼の言う言葉のひとつひとつに心が揺れる。
「イルミネーションとかを見て¨キレイ¨と言う。」
「うん」
「また自然を見ても¨キレイ¨と言う」
「…うん?」
彼は眉間に皺を寄せて、あたしを見た。
…ちゃんと朝、髪をといてくるべきだった、と後悔するにはもう遅くて、
「でもね、このイルミネーションは、自然を破壊して出来たものなんだよね。それでもこのイルミネーションはキレイだと想う?」
あたしが押し黙っていると、また白い息が出て彼はそっと微笑んだ。それは、まるで小さい頃に歌った真っ白な恐竜が思い出されて、少し笑えて彼を見たけれど、当の本人は、何も気にしていない様子で口を開けた。
「だからやっぱり、これはキレイじゃないと想うんだ。」
じゃあさ、君にとってのキレイなものって何なの?
頭よりも早く口が動いていた。すると彼は大きな目を少し細めて、
「あい。」
そう答えて、 暮れかけの空を大きく仰いだ。
「‥愛‥?」
「うん、あい、 君の名前」