【オリジナル小説】バタフライ
「ありがとうございます。えーと、ユリさんはキクオさんに、キクオさんはユリさんへと体が入れ替わったということですね。」
「そうよぉ〜!いったいどうしたらいいのよ〜!」
「そんなこと聞かれても・・・。」
妖精は頭をかかえ悩みだした。こんなときこそ魔法をつかえばいいだろう。それを願い事にして、さっさとこの厄介ごと多々の妖精には帰ってもらいたい想いだ。妖精に頼んでみたが、大丈夫なのだろうか。
「それでは、いきますよ〜!ちょっちょひらひらぁぁぁそれぇ!!」
もうこの呪文にはトラウマを覚えそうだ。呪文が唱え終わり、自分の姿を見てみた。
「ふぅ〜。ユリさん?元にもどれまし・・・、あははは・・・。」
「ちょっとぉ・・・。服だけ入れ替えてどうすんのよ!!」
「うえぇ・・・。俺の体が女の子の服着てる・・・。」
そろそろ泣きたい気持ちになってきた。キクオ君には土下座したい気分だ。もちろん妖精もさせるつもりだ。
「うわぁぁぁん。このまま元にもどれないなんて、絶対にいや〜!」
夢なら覚めてほしい。なんで私がこんなめにあわされなくちゃいかんのだ。
「ユリ様。キクオ様。大丈夫ですよ、なんとかなり・・・「見つけたわよ!!」
いきなり階段の上から声がした。上をみあげるとそこには、妖精と同じくらいの小柄な黒髪の女の子が立っていた。
「さっきはよくもやってくれたわね!!」
どうやらその子は中身がキクオ君の私にむかって怒って叫んでいるようだ。私はその子に見覚えがなく、多分初対面だ。
「あんたは誰?」
「ふふふ。アタイはね、せっかくの獲物をその女に横取りされた、蜘蛛だ!」
「えっ、俺?」
どうやら私が助けた蝶がひっかかた巣の蜘蛛のようだ。虫ってなんでもありだなと暢気なことを考えを止めて、私がキクオ君と入れ替わった知らない蜘蛛に、弁解しなければ。
「あんたから蝶を取ったのはその人じゃないの!私なの!」
「なんだい、アンタ。邪魔だよ!おまけに男のくせに女言葉しゃべっちゃって。」
そういえば私、今はキクオ君の体だから、男の子じゃん、と自分の状況を思いかえした。確かに今の姿のまま普段のしゃべり方だと気持ち悪いにもほどがあるだろう。そんなこと考えている間に蜘蛛が中身キクオ君の私に接近していた。
「食い物の恨みを思い知れぇぇぇ!!」
「待ちなさいって言ってんでしょうが!!」
「あわわ。ど、どうしよう・・・。え〜い、くらえ!ちょっちょひらひらぁぁぁそれぇ!!」
蝶の妖精が呪文を唱えた。光で何が起きているのか見えない。
「なっ!体が勝手に動く?!」
蜘蛛があわてている。どうやら妖精は蜘蛛の体の自由をうばっているようだ。妖精グッジョブ!と思っていると、なんだか変だ。体が勝手に動く。これって、もしや。
「なんで私たちまで狙ってどうするのよぉぉぉ!!」
「うわぁぁぁ!!そっちは土手だ!!」
妖精に魔法をかけられた私たちは、三人仲良く土手の下に転げ落ちていった。
「痛い、痛いよぉ!くっそう、おぼえてろぉぉぉ!!」
蜘蛛は泣きながら、どっかに走って逃げていった。
「あたたた。あの子、どっか走てったみたいだな。」
「いててて。そうみたいね。ってあれ?」
お互いの顔を見ると、見慣れない顔だった。自分の顔に手をあて、体を見てみた。そして、胸に嬉しさがこみあげてきた。
「ユリさ〜ん!キクオさ〜ん!すみません。また失敗しちゃったみたいで、ってあれ?二人ともどうしたんですか?」
「「もとに・・・」」
「もとに?」
「「もとに戻ったぁぁぁ!!」」
そう、私たちは体がもとにもどったのである。
「まぁ、結果オーライだけど一応、ありがとう!」
「喜んでいただいてよかったです。あっ、そろそろ日が暮れそうだ。」
言われてみればすでに夕方で、夕日がまぶしかった。
「帰るのか?」
「はい。最後にユリさんとキクオさんの役にたててよかったです。それでは、さようなら。」
妖精の姿が手のひらサイズの蝶になり、空へ飛びたった。
一件落着かと思ったが、まだ何か違和感がある。キクオとユリはお互いを見て、顔をひきつらせた。そして、空へと飛んでいった妖精に叫ぶ。
「「こぉぉぉらぁぁぁ!!服もどしてかんかぁぁぁい!!」」
そう、私たちの服はまだ入れ替わったままなのであった。
作品名:【オリジナル小説】バタフライ 作家名:chisso073