勝負の冬の使い方
「そう。明日も天気ね。シャオってばお天気お兄さんみたい」
「…話、繋がってないよ」
「繋がってるよ。臨死体験天気予報。川が見えると雨なんだよ」
「だからって絞めなくていいんじゃないか」
「SとMが付き合ってんだから、あれで幸せなんだろ」
咥えたばこで競馬新聞を読んでる年上美人巨乳美女の横で、
おれ、なんでこんなヤツと付き合ってるんだ
と
なんでこんなヤツの幼馴染とWデートしようなんて気になったんだ
の、どちらを優先して考えればいいのか迷う早坂、高校三年、全国模試第一位、勝負の冬をちょっと歪んだ恋愛につぎ込んでいた。
日曜、ファミレスでの長閑な昼下がり。
「早坂くんはなんで七緒と付き合おうなんて思ったの?」
彼女の幼馴染、マオさんに聞かれ、早坂は出会いを少しだけ昔を思い出した。
「模試に行く途中、曲がり角でぶつかったんですよ。おれ、今までそんな経験したことなかったんで」
「七緒新聞読みながら歩くからなー」
臨死体験から戻ってきた、彼女の幼馴染、シャオさんがうんうん、と頷く。
頷く度に、鼻の上にちょこんと載せられた黒眼鏡がなんで揺れないのか早坂は気になったが話の腰を折るわけにもいかないので先を続けた。
「これが噂に聞く一目惚れかって諦めて付き合って貰いました」
「諦めてなんだ!?」
「それ、どこ世界の一目惚れよ!?」
中華風の服を華麗に着こなした美男美女が机を強く叩き驚いて立ち上がる。
はたから見ると、中華マフィアに脅されているように見えるだろうな、と早坂は二人を見ながらこんな時でも何故シャオさんの黒眼鏡は揺れないんだろう、とアイスコーヒーのストローを銜えながらどうでもいいことを考えた。
「さあ? クラスメートがカップル見ながら『俺もあんな出会いがしてーなー』と言っていたのを聞いただけなので、出典までは分かりませんが、」
「「が?」」
「模試の時間なんでそろそろ帰っていいですか?」
「あ、そっか。学生さんは大変だよね。頑張って」
「来年は俺らと同じ大学においでよ」
中華風美男美女と競馬新聞から目を離さず手だけひらひらさせる彼女に見送られ、あんな風になるために大学に行くのか、と全国模試トップ独走中の高校三年はため息を吐いて重い足取りでファミレス前の模試会場へと向かった。
あんな三人が最難関の第一志望校の先輩。
重い現実を思い出して、また深くため息を吐く早坂高校三年受験生、『類は友を呼ぶ』と周囲に言われるにはまだ早い、勝負の冬だった。