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とある三馬鹿の日常風景 夏編

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ジーワジーワと蝉が煩い昼下がりだった。
ダンダン!という騒がしいノックで叩き起こされた俺は何故か台所に立っていた。
そして調理台の上にはアイスが乗った小皿が3つ。
簡単に状況が把握できる辺り慣れちゃったな、と軽い溜息が出る。
ロランとは数年来の付き合いだ。ましてやニーニョなんかは生まれついての幼馴染だ。むしろこれで慣れていないほうがおかしいのかもしれない。
まだぼぅっとしている頭をぶんぶん振って、眠気覚ましに。と冷蔵庫からコーラを取り出し一気に呷る。
普段は心地よい炭酸の刺激が、寝起きだからだろう、今は強すぎたようで涙目になっていた。
「レオちゃーん、アイスまだー?」
ロランがドアを開けて強請りにきた。こっちくんな。と思いつつもなぜか許してしまう。全く以って通常運転だ。
ドアの向こうからはニーニョの「あついー!アイスーまだなんー?」という何とも傍若無人な声が聞こえる。黙れ、こっちも暑いんだよ。と心の中で文句をつけ、
「アイスならそこにあるから、好きなもん選んで持ってけ。」
そう言うと飲みかけのコーラを傾け、ぐい、と飲み干す。
やっぱり炭酸の刺激が強いようで視界がにじんだ。
やべ、また涙目かよ。最近炭酸系飲んでないから感覚を忘れてたんだ、きっとそうだ。と納得できるのかよくわからないことを呟いて自己完結を試みたが、
「え、レオちゃん。なんで泣きそうなの?」
まだアイスを選んでいたのか、ロランが未だ涙目の俺を見てぎょっとしたように言った。
「泣いてねーよ」
いいからさっさとあっち行けよ。と涙目なのを見られて恥ずかしい上に、いい加減「アイスー!」と呼びかけるニーニョが煩くなってきたから、ロランにしっしっ、とホームの意を込めて手を振った。
しかしそんな俺の儚い努力もむなしく、全く心情を察しってくれないロランはにじり寄り、肩に腕を回す。
「おいやめろ、暑苦しい」という俺の切実なる苦情を聞き流すとロランはニヤニヤ笑いを浮かべる。
こいつ絶対確信犯だ。
「良いから教えろって、何?またルイーゼちゃんに振られた?」
そう聞くロランを一睨みしつまらなそうに
「いつものことじゃねぇか」と、ちょっと唇を尖らせて零す俺に「それもそうだけど」と、ロランはあっさり答える。
「ぐ。」自分で言っててナンだが、ダメージを喰らった。クリティカルヒット、俺の視界が更に潤んだ。
「ちょっとちょっとー、アイスまだなん?いい加減暑いってぇー…え、」
その時、痺れを切らしたのかニーニョが緩慢な動きでだるそうに台所へやって来、未だ涙目、いや、更に涙目の俺を見てぎょっとしたように目を見開いた。
「何でレオン泣いてんの?またロランが泣かせたん?」
不思議そうにニーニョがロランに問うと、ロランも唇を尖らせて
「ちょ、違うし!今日はこの子が勝手に泣いてんの!」
と俺を指差す。責任転嫁かこんちくしょう。
「待て、それだと俺がいつもロランに泣かされてるみたいじゃねぇか!」
俺は心外だとばかりにしかめっ面で反論する。
「「え、違うの?」」
それこそ心外だとばかりに目を丸くする二人。
その様子に俺は額に青筋を立て、語気を荒げて
「違えし!何驚いてんだよ、声揃えんな!!」
と、俺が遺憾の意を込めて叫ぶとニーニョは何かに思い当ったようにポン、と手を叩く。
「ああ、そっかルイーゼちゃんのことやな」
と言って先ほどロランが浮かべた腹の立つ笑顔で、口元にニヤニヤ笑いを浮かべる。
お前らそこでシンクロしてんじゃねぇよ。
「正解(笑)」
「イエーイ!」
ハイタッチをするロランとニーニョに
「ハズレだよ、大馬鹿野郎共が」
べしっ、と手刀で二人に割り込み、
「オラ、早く食わねぇとアイス溶けんぞ。」
そう言って冷蔵庫を開けてコーラを戻そうとして、中身が空なのに気付く。
チッ、と軽く舌打ちをしてまだ肩にのっかかっていたロランの腕をぺいっと払い除け、ペットボトルをゴミ箱に乱雑に突っ込んだ。
たぶん後で掃除にきた弟が、分別しろとかなんとか煩く説教してきそうだが「ま、いっか」と開き直り、アイスを選んでる二人の頭を一発ずつ叩いた。
ぱぁん、と予想以上にいい音が響いて、思わず笑いがこみ上げる。
「ちょ、いきなり何?」「もー、びっくりしたわー!」抗議する二人に俺は笑いが止まらないまま「悪ィ悪ィ」と片手を上げ詫びる。
箸が転げただけで笑える歳というものだろうか、そんな俺を見ているうちに、笑いが伝染してきたのかロランとニーニョにも段々と笑みが浮かび始めた。
「もー、しょうがねーなぁレオちゃんは」眉を下げてロランが言うと「ほんまになぁ」とこれまた眉の下がったニーニョが同意する。
「ほら、アイスが溶けるから、レオちゃんもさっさと持っておいで」
と、ロランはアイスの皿を手に取り、ばちかーんと気色の悪いウィンクをして、元いた部屋へと戻っていく。と、先に戻っていたニーニョが
「ごめんなぁ、レオンー、スプーン忘れたから持ってきてくれへんー?」
と、完全に寛いだポーズで、入ってきたばかりの俺に手を合わせる。
「お前なぁ、」
呆れたように俺は呟くと台所へ引き返す。
その背中に「あ、ごめーん。俺もだわー」とロランも呼びかける。
「お前らなぁ!ったく…」
今度はポコポコと頬を膨らませ、3人分のスプーンを持って部屋に入る。
「俺が言うのもなんだけど、忘れ物はするなよなー」
「ほんまにレオンが言うのもなんやね」
「うるせぇ」
アイスの美味い、暑い、昼下がりの話だった。

(了)