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箱の庭

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乱暴に捨てられた綺麗な言葉が色を失ってモノクロームになる頃。
突然降り出した雨が雪に変わってゆくうちに、空は虹を飾るのを忘れて真っ白な太陽を連れて帰ってきた。
ただ広がるだけの背の高い向日葵たちは謡うように揺れて、指先から流れてゆく風を鳥が追いかけてゆく。鞄の端に引っ掛けたラジヲから流れてくる音楽は、美しいほどの音色を奏でて空気を振動させる。そしてのんきな天気予報が告げたのはただの異常気象の情報だけ。誰だって分かってる。
太陽の隣に月。一緒に居られていいね、なんてどこかの誰かが嬉しそうに呟いたものだから、猫が嬉しそうに鳴いて、道端で主人の帰りを待つ犬が悲しそうに耳を伏せた。それを笑ったのはたまたま揺れた草木。
正午を知らせる時計の鐘が鳴り響く。その指針を止めたがっていた指先が震える。
ショウウィンドウに並ぶ何匹もの可愛いヌイグルミへとにっこりと笑って通り過ぎ、道を示す目印を逆の方向へ変える。たまにはそういうのもいいんじゃない。
雪に埋まりそうな午後の草原に、背の高い向日葵たちは少しだけ泣くように俯いて。海を忘れてしまった空が色を失って、太陽と月の灯りに縋り、真っ白に。
空と雲の見分けが付かなくなる頃、鳥たちはただ風に乗るために翼をひろげ、道標を無くした風は行く先が分からずに消える。
鞄の端っこに引っ掛けたラジヲから流れてくる音楽は、悲しいほど美しく、のんきな天気予報が告げたのは「明日は快晴でしょう」と言う、感情の篭らないお姉さんの声。
それを笑ったのは、磨り減った靴の裏側。


(箱庭がおわる音はこんなにも美しく静かだ)

作品名:箱の庭 作家名:水乃