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ホルンのゆめ

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長い時間、そう、ホルンにとってそれはそれは長い時間が過ぎました。

いつしかホルンのつややかな金の表面はすっかり曇り、ピストンは油がきれて滑らかには動かなくなりました。
それ程の長い時間が、過ぎました。

眠っていたホルンは、がさごそいう物音で目を覚ましました。
遠くの方に、女の子の声がします。ホルンは一瞬はっとしました。
すぐに、あの女の子が来てくれたんだ、と最初ホルンは思いました。
ぱちん、という音がして、ホルンはあまりの眩しさにくらくらしました。
少し時間を掛けて、ホルンはそれが明かりだということを思い出しました。そしてつまり、ケースが開いたのだ、ということにも、続けて気付きました。
そんなことも忘れてしまうくらい、ホルンは深く眠っていたのです。
けれど、すっかりくたびれたホルンをのぞき込んだのは、ホルンの知らない女の子でした。
おかあさん、これなに、と女の子が不思議そうな表情でホルンを持ち上げます。
あら、懐かしい、と言って続いてホルンをのぞき込んだのは、あの女の子に似た、でも知らない女の人でした。
二人の目の形は、とてもよく似ています。
―ねえ、これなに。
―おかあさんが中学生の頃やってた、ホルン。
―ふうん、これ、まだ吹ける。
―磨いて、油さして、調整すればまだ使えるわよ。どうして。
―あたし、部活迷ってたじゃない。決めた。吹奏楽部でホルンやる。
そんな二人の会話を、ホルンはどこかぼんやりと聞いていました。
身体はあちこち強ばって、きいきい音を立てます。
色だって、きれいな金色だったのに、すっかり曇って、まるで鉛のようです。
それでも女の子は嬉しそうにホルンに笑いかけてくれました。
それから少しの間、ホルンは女の子の元を離れて修理に出されました。
職人さんに、磨いて、油をさして、調整してもらって、ようやくホルンは元に戻りました。
それからはずっと、新しい女の子のそばにいます。
女の子は熱心で、前の女の子よりはちょっぴり才能がありました。
ホルンは以前にまして、誇らしい気分で一杯でした。

ただし、あのつややかな金色には、戻れません。
あのすばらしく優雅だったあさがおも、所々に小さなゆがみがあります。
それに何より、今はこのホルンより後に生まれた、ピカピカでずっと新しいホルンたちがたくさんいます。
それでも、それでも。
しあわせだなあ、と。
ホルンは女の子の腕の中で誇らしげににっこりしました。



おしまい
作品名:ホルンのゆめ 作家名:雪崩