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みそっかす
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novelistID. 19254
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さよならキリギリス

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さよならキリギリス


 野原の片隅の地面の上で アリたちは働く 足並みをそろえて
 皆顔はうつむき黙々と働く 溜め息すら出ない その目はうつろ

 キリギリスは歌う 誰も見向きはしない それでも彼は歌う 陽気な声で

 こんにちは皆さん お初にお目にかかります
 あんまりにも良い空なので 是非ともお目にかけたくて
 空には雲が悠悠と浮かんで 大地を見れば花々が咲いてる
 少し顔を上げてみれば 茶色い地面以外にも見えるものがあるでしょう?

 太陽の陽射しがひときわ射している 踏んでゆく影も 一段と黒い
 流れていく汗をぬぐうこともしない 荷物を担ぐ手が 濃い汗で滑る

 キリギリスは歌う 炎天下のステージ 渇いた大地に 音楽が響く

 今日は随分と暑いお日柄で お仕事精がでますね
 こんな日には大変でしょうが せめてもの励ましに歌います
 太陽は灼熱、咽喉はカラカラ 地面を見ても土と影があるばかり
 少し顔を上げてみては? 染みるような青空が広がっているでしょう

 満月が昇る ススキの葉が揺れる 肌寒い風が アリたちの列を揺らす
 秋の音楽会 アリたちは見向きもしない くだらないと決めつけ 夜道を進む

 キリギリスは歌う 少しやつれたけど 囁くように優しく 夜風に乗せて

 こんばんは皆さん 今宵は月夜です
 こんな晩はゆっくりと休みませんか? 子守唄変わりに聞いてください
 夜になれば秋風に乗って 虫達の歌声、草花の香りが一層します
 少し目を閉じてみれば そこのあなたにもほら ね、感じるでしょう?

 白い雪が深く 冷たく積もる 凍える風が 野原を凍らせ
 巣穴に篭ったアリたちは不安で 冬を憎み 雪を恐れた

 キリギリスは歌う 痩せ細ったけど 声は何処までも 強く響く

 こんにちは皆さん いかがお過ごしですか?
 外は何処までも一面の銀世界 確かに怖いけど、それだけじゃありません
 雪が解ければ恵の水が染み渡り この大地に豊かな春をもたらす
 どうか憎まずに 冬があるから温もりの大切さもきっと分かるんでしょう

 キリギリスは歌った 季節にアリたちに寄り添いながら
 アリたちに世界を見せたくて アリたちも思うようになった 「世界を見たい」と

 キリギリスの歌が途絶えた日 アリたちは外に出た 目を差すような光
 待ち望んだ春が来た キリギリスは死んでた 痩せこけた顔で 微笑んで眠ってた

 アリたちは泣いた 初めて空を仰いだ 澄み切った青が目に染みた

 さよならキリギリス 世界の歌い人
 お前が歌った世界を見たよ なぜだろう確かに、素晴しく綺麗なのに
 とても寂しいよお前の歌がない 俺たちに寄り添うお前の歌が
 どうかもう一度、その歌声を響かせて ともに歌っておくれよ

 野原の片隅の地面の上で アリたちは働く 足並みをそろえて
 皆顔を上げて揚揚と働く 野に響く声は 世界を歌う
作品名:さよならキリギリス 作家名:みそっかす