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さかきち@万恒河沙
さかきち@万恒河沙
novelistID. 1404
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Light And Darkness

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 テレビの画面はすでに悠弥の学校の事件から話題を変え、芸能人だれそれがどうしたといったテロップの向こうで女のキャスターが何か言っている。
 振り向いたとき、義貴ははっとするような微笑をこちらへ向けた。悠弥は息を飲んだ。相手が女ならいざ知らず……何故その鮮やかな笑みに胸を突かれたのだろう。彼のそんな表情が、悠弥に何かを訴えたような気がして。
「――……ええ。かもしれませんね」
「……」
 今の、微妙な間はなんだろう、と悠弥はさらに首を捻った。
 渋谷でそんな事故があった、なんて話は――聞いてないけどな。
 ここのところ、性悪な化け物をおっかけて……世間さまの具合など知ったことではない状況が続いていたので、無理からぬことだろう。
「そういえば、大伴さんは大学では何をやってるんですか? ……四年生、てことは卒論とか? 忙しいんじゃ?」
「ああ」
 義貴が穏やかに表情を変えた。
「専攻は、宗教ですよ。神道、って知ってますか?」
「……」
「神道学科を選択しています。行く末は、神職ですね。まだ、予定ですけれど」
 ――へぇ。
 合縁奇縁、とはよくいったものだ。
 それを聞いて、義貴に感じたのは懐かしさだと理解した。
 悠弥が胸を突かれたのは彼に懐かしさを覚えたからだ。否、それは高崎悠弥――ではなく、『御師』・天津久米命であったろう。真闇に一条の光を見る刹那。信仰の炎が、力になる。
 二千年という時代、刻んできた戦の歴史に、絶対の正義をくれる。
 守りぬけ、と天から下された命――かつて豊葦原と呼ばれたこの国を。
 目の前で、包帯ぐるぐるもいいところであるこの自分が、天照を仰ぐ伊勢神族のひとりであることや。久米命が知っている、真実の神道史――これは現代人の感覚でいうとどえらく荒唐無稽なでっち上げのように感じるかもしれないが、とにかくそんなものを彼が知り、理解することはあるだろうか。
 悠弥――久米命に天は厳しく告げる。反言を許さずに。
 たったひとりになったいま、たとえどれほどの罪を背負っていようと。過去がつらく苦しいものでも。振り返りたくない記憶を抱えてでも。
 生を維いでいる限り、生き抜く義務がある。罪を償う機会がきっとある。
 過去を、未来へつなぐことができる。
 そして、生きることには意味が、ある。


 高天原――神の郷。勝利を手にするために。