僕らの時間
僕は一枚の画用紙を前に呟いた。
「え、もう? さっき描き始めたばかりじゃない」
そう、彼女が言った通り僕は目の前におい置いてある絵を描き始めたのは、一時間ちょっと前だろう。
「どれどれ……うん? うわー綺麗……って……まだ描きかけじゃん!!」
彼女が思わず声を上げるのも仕方がない。
だって、彼女が手にしてる僕が描いた絵は誰が見てもまだ途中のものだと思うだろう。そのくらい、完成度は低い。でも、これで良い。これで完成なんだ。
「いいんだよ。これで完成だ」
「でも、ちょっと不満……」
そう言って、彼女はぷぅと頬を膨らませ、そっぽ向いた。
「私がモデルの絵は描けないの? って思っちゃうじゃない」
彼女の悲しい顔は見たくないが、この絵はこれで完成なのだ。
「理由は?」
「理由は……」
放課後の美術室。
グラウンドから聞こえてくる、野球部の声。
オレンジ色の光に包まれる二人。
この一瞬は、残すことなど出来ない。
この気持ちを、流れゆく時間に任せて、
「描けるわけがないんだ……」
END