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【APH】詰め放題パックそのいち【ごった煮】

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04.想う数だけ聞こえる音色



 ねぇオーストリアさん、知っていますか。
 私ね、貴方の事、ホントにホントに、大好きなんですよ。

 赤いベルベットのソファは、私がまだ幼い頃からここにあった、とっても古いもの。私はそこに腰かけて、いつもと同じように、彼の紡ぎ出す音に耳を傾ける。
 言葉なんて存在しない。ここにはピアノの音しかない。この部屋では一切会話をしない、それが、暗黙の決まりだった。
「……」
 ポロン、ポロン、と零れ出る音色が、愛しくて、私の顔には自然と笑みが浮かぶ。オーストリアさんは瞳を閉じたまま、静かに鍵盤に指を滑らせ続けた。滑らかな指づかいに音は一瞬も途切れることなく紡ぎ出される。
 もうこの部屋の窓を開けておくには寒い時期になってしまったけれど、もう少し温かな時期ならば、窓を開け放して、外にまでその音色が響くようにしておくのも良い。
「(あぁ、でも、)」
 その音色を、私だけのものにしておきたいなんて……それはきっと、我が侭なのでしょうね。


「……今日のおやつは、何にしましょうか」
 ピアノの部屋を出ると、私たちの間には会話が生まれる。オーストリアさんは楽譜を整えながら、そうですね、と迷うように視線を彷徨わせた。
「ザッハトルテはどうです? 丁度、ベルギーから良いチョコレートを貰ったんです」
「良いですね。それじゃ、一緒に作りましょう!」
「えぇ」
 私の言葉に、オーストリアさんは嬉しそうに答えてくれる。私はそれが嬉しくて、微笑み返す。
 オーストリアさんが楽譜を自室に置きに行っている間に、私は一足先にキッチンに入る。冷蔵庫の中を覗けば、そこには確かにベルギー産と書かれたチョコレートが沢山入っていた。そう言えば、私もこの間ベルギーちゃんに貰ったんだっけ。あのチョコレートは何に使おう。
 そんな事を考えながら、小麦粉やバター、牛乳など、お菓子作りに必要な材料や道具を出しておく。オーストリアさんの家のものの位置を把握したのは、もう随分と昔の話だ。
「そう思うと、随分と経つのね」
 私が『おとこのこ』をやめて『おんなのこ』としてこの家に来たあの日の事。まだ、覚えている。
 オーストリアさんも今より血気盛んで、色んなところに制圧だ何だと出て行っていたものだった。私は戦いにはあまり向かなそうなその後ろ姿を、ちょっぴり不安な気持ちで見送っていた。
 あの頃から私は、オーストリアさんの事が大好きだった。一目惚れ、だったのかも、知れない。
「(私はオーストリアさんが好きで、オーストリアさんも私が好きで)」
 こんな、こんな幸せなことってない。今は別々に暮らしているけれど、こうしてお互いの家を行き来して、彼の紡ぐピアノの音を聴いたり、一緒にお菓子を作って食べたり、そんなささやかな幸せを繰り返して。それを飽きることなく続けていく。
「(きっと、あのピアノの音も、オーストリアさんの紡ぐ音だから)」
 トクベツな音に、聴こえるんだろう。
「ハンガリー――あぁ、準備をしておいてくれましたか」
「オーストリアさん!」
 呼ぶ声に振り向けば、オーストリアさんが思いの外近くに居た。思考にふけっている間にキッチンに入ってきていたらしい。
 オーストリアさんはにこにこと笑う私を不思議そうに見て、首を傾げた。
「何か、ありましたか?」
「え? あぁ、いえ――何も特別な事なんて、無いです。でも――」
 私はチョコレートのパッケージを開きながら、オーストリアさんの声に答える。甘い香りがキッチンに広がった。
「……しあわせだなーって、思って」
 貴方が居て、私が居て。天気が良くて、チョコレートの甘い香りがして。
 ……貴方の音が聴けて。
「こういう日が、当たり前に続けばいいなーって、思ってたんです」
 そう言ってオーストリアさんを見上げれば、彼はちょっぴり驚いたように目を丸くして、それからふっと、口元を綻ばせた。
「……そうですね」
 オーストリアさんはそれから、ゆっくりと私との距離を縮めて――そっと、唇と唇を、触れ合わせた。
「……」
 とくとくと鳴る心臓の音。彼も、きっと、同じように心拍を感じているのだろう。
「(あぁ、それって、何だか……)」
 二人の想いがあるから聴ける、特別な音みたい。
 やっぱり、これ以上の幸せなんて、きっと、この世界には存在しない。