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【APH】詰め放題パックそのいち【ごった煮】

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02.痛みを伴う予感



 俺たちの関係は、腐り切っている。それはもう、色んな意味で。
「――坊ちゃん、お目覚めの気分はいかが?」
 目を覚ますと同時に聞こえたのはそんな声。声のした方に目をやれば、見慣れた金髪の男が俺の顔を覗きこむようにしてきていた。上半身は裸。恐らく――下も、何も穿いていないだろう。それは自分も同様だった。
「……最悪だ」
 眉を顰めて低音で言えば、フランスは肩を竦める。
「言っとくが、ベッドに連れ込んだのはお前だぞ?」
「うっせぇ。んなこと知るか」
 俺はフランスから目を逸らして起き上がった。行為の余韻か、下肢に鈍い痛みを感じる。クソ、忌々しい。
 さっさとベッドから出て、そこらに脱ぎ散らかしてあった衣服を適当に着る。どうやらここは俺の家のようだ。ホテルやフランスの家でなかっただけまだマシかも知れない。昨日こいつと散々飲んだのは記憶にあるんだが、それは途中から面白いようにぶつりと途切れている。酩酊状態になって、こいつに何とか家まで連れてこられた、といったところだろうか。
「(いつものコースだが、やっぱ気分は最悪だな)」
 ストライプのシャツを羽織り、俺は振り向きざまにフランスに言う。
「俺、シャワー浴びてくっから。お前テキトーに飯作っとけ」
「え。お兄さん働かせる気?」
 フランスは何か言いたそうだったが、その言葉の続きは聞かずにバスルームへと足を運ぶ。バスルームの清潔なにおいが、今は心地よい。
 きゅ、とコックを捻れば、丁度良い温度の湯が流れてきた。鏡に映る自分の首筋や鎖骨や胸元には、いくつもの鬱血が確認出来た。他でもない、あいつにつけられたんだろう。
「……」
 そっと、紅く咲いた花に、手を当ててみる。
「……腐り切ってる」
 俺たちの関係は、もう、腐れて、爛れて。それでも尚、そこに確かに存在し続けている。
 どうしてこんな関係になった。いつからこんな関係になった。
 俺は、こんな関係になることを望んでいた訳ではなかったのに。
「っ……」
 何故か涙が溢れてきそうになるのを自覚して、俺は固く目を閉じた。さー、とシャワーの流れる音が耳に届く。
「(俺は、こんな関係になりたいんじゃなかった)」
 酒を飲んで、虚ろな意識で交わって、その翌日には当たり前のように憎まれ口を叩き合って、喧嘩して。それが今の俺たちの在り方だ。ある意味では、とても俺たちらしい関係であると思う。
 けれど。
「(俺は――)」
 こんな曖昧な関係では、嫌だ、と。心のどこかで必死になって叫んでいる自分が居るのを確かに感じていた。


「……お、上がったか。もうちょっと待ってろよー」
 バスルームから出てぺたぺたとキッチンの方へ歩いていけば、いいにおいと一緒にそんな声が飛ばされた。くん、と流れてくる食べ物のにおいを嗅げば、胃が早く食わせろと鳴きそうになる。
 キッチンを覗けば、見慣れた後姿。確か冷蔵庫の中にはあまり食材のストックも無かったし、オムレツでも作っているんだろうか。
「……」
 俺はその後ろ姿を追いかけるようにぺたぺたと足を進め。
「……イギリス?」
 その背に、そっと、額を預けた。
 あぁ、やっぱり、この温度だ。この体温だ。俺が求めているのは。
 酒で記憶も失うほどに酔っ払って交わるだけじゃ、足りない。そんな、愛情の欠片も無いような行為じゃ、俺は満たされない。
「(だいきらいだと、おもっていた)」
 いや。大嫌いだ。大嫌いだ。こんな奴。今すぐにでも殴りつけてやりたい。
「(だけど、そのぶん)」
 気持ちは――膨らんでいく。身体に残された痕と一緒になって、僅かな痛みを伴いながら。
「(これが、このきもちが  になるまで、あと――)」
 どれくらい、かかるだろうか。
 痛みを伴う、それは、予感だった。