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(処女作・短編) 雨と団子とパンダ

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六月の蒸し暑い季節、夜だというのに吹き付ける風がどうも生温く感じて気持ち悪い。
 Yシャツもベタつき、家に帰ってシャワーを浴びて早く寝たいところだ。
 そんな男が夜道を彷徨っていると、ブランコとか御定番の物が設置された公園へと辿り着いた。
 街の街灯が男の哀愁の漂った背中を明るく照らす。

 はぁー、と大きな溜め息を一つ。立っているのも辛いのでパンダの乗り物へと跨る。
 ギシッ、と今にも壊れそうな音を立てる。前後に揺れるとその音は一層強くなった。
 どうしてこの男がこんな所にいるのか、それは最近結婚した妻との些細なことが原因で起きた喧嘩が理由だった。
 カッとなって家に出たのは良い物の、この後の事を一切考えていなかった。

 父親がよく言っていた、人生山あり谷ありだと小さい頃に何度も何度も言い聞かされた。
 今まさにその辛い上り坂を登っている所だろう。その分の下り坂を下る時は一体どれほど気持ち良い物だろうか。
 パンダの乗り物から降りて、この先の事を考えている男の頭上から雨粒が落ちてきた。雨だった。
 その雨により、男のYシャツは更に着心地を悪化させた。

 男は急いで雨宿り出来る様な場所へと走った。
 たどり着いた場所は駅前のコンビニだった。駅前だけあって深夜でも人はちらほらと見かけた。
 レジの近くにあった和菓子コーナーが目に入る。そして男はふと妻の笑顔を思い出した。

 大学時代に知り合った彼女。その一番最初の出会いはサークルだった。
 最初はあまり関わりがなかったが、合コンの際に一度話し合った。彼女の笑顔は、大袈裟に言うと幻想的な物だった。
 そんな彼女の笑顔に俺は惹かれたのかも知れない、そしてそれを思い出させたのは『団子』だった。彼女の大好物の。
 あまり人を物で釣るのはどうかと思うが、これで彼女の怒りが少しでも収るのなら、と財布の中から少ない銭を取りだす。
 ビニール袋を片手にコンビニを後にする男。雨がさっきより強くなっていたが、この場所から家は走った所で3分くらいだろう。
 そして男は走り出した。


 翌日の新聞にはこう書かれてあった
 『昨日未明、会社員のxxxさんがトラックに跳ねられた模様、警察は自殺を視野に入れて調べを進めている』