放課後、学校の図書室で。
幼馴染みの少女からの叱咤の声に、はぁいと生返事を返す。
微睡みかけているふわふわとした感覚は何故こんなにも心地よいのか、欠伸を噛み殺しながら彼女は脳みその隅っこでぼんやりと考えていた。
自分なりに一所懸命考えをまとめようとするものの、ぽかぽかとした温かな陽射しがそれを阻む。
元より緩い構造の脳みそには、一溜まりもない。
思考は既に霧散していた。
静かな図書室はちょっと埃臭くて、その空間の中には独特の空気があった。
机を挟んだ向かいでは、件の幼馴染みが真面目な面持ちで教科書の文字を目で追っている。
時折困ったような顔をして、それでも必死に数学の設問と格闘している。
運動神経がよくて、放課後のこの時間はいつも部活に打ち込んでいるはずだが、テスト期間前は流石にそうは行かないようだ。
幼馴染みの表情を観察しながら、顔がにやけてくるのを自覚する。
少しキツイ性格だけれど、面倒見の良い所のある幼馴染みの事が彼女はもう大好きで大好きで、鬱陶しがられてるのも承知の上で、高校生になった今でも何かというと頼る癖が抜けていない。
頼られると放っておけないその性質が愛しかった。
今日だって、勉強会の名目で誘ったのは彼女の方なのだ。
それなのにこの体たらく…違うのお日様が気持ちよすぎるのが悪いんだよ、などと誰に対する弁解なのか胸中で言い訳を溢す。
(あー…もうダメだぁ)
いよいよ上まぶたが重くなってきて、自然とまばたきの回数が増えてきた。
「ちょっと…本気で寝る気?」
「うーん…お休みなさぁい…」
視界が完全にブラックアウトする直前、彼女の瞳に映ったのは、幼馴染みの呆れた表情だった。
丸めたノートで側頭部を叩く、ぽこんという音が間抜けに響いた。
作品名:放課後、学校の図書室で。 作家名:ヨシノ