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毬藻と人間

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ぶくりと太った金魚が濁った青の中を嘲笑うように踊る
僕は息が最初から、産まれる前から無いと決まっていて当たり前のようになかったように 僕は息ができなかった
下から見える水面は薬品と水泡と赤黒い金魚が占領し、僕は心が苦しくなる 見る度にぶくりぶくりと太ったように見える金魚が嘲笑う。(ほぉら、喋ってみなさいよ。


やめてくれ、僕は君みたいな汚い魚が一番嫌いだ
汚くて薬品臭い、どうせ祭りの釣られ子の死に損ないのくせに


僕には空洞がある
この空洞ができたのもこの金魚せいだ
金魚が来る前、僕には空洞なんてなかった
優しい指に優しく手入れされて、綺麗な水の中でご主人がコーヒーを飲んだり、箱の中に映る人を見て笑ったり泣いたり、携帯を開いて箱の中に映る人を見て笑ったり泣いたり、携帯を開いては溜め息 箱の中に映る人を見て笑ったり泣いたり、携帯を開いては溜め息を着く瞬間を、幾度となく見てきたんだ


ただいま、リリィ、リモ 優しい声が僕の名前を読んだ
忌々しい金魚が先に呼ばれたけどまぁいいとしよう
ばちゃばちゃと音を立てて騒ぐ金魚とは違って僕は寡黙だ
そういえばご主人もどちらかといえば寡黙かもしれない



仕事に疲れ果てたのだろうか、水面下から隈の下に涙のあとがうっすらと僕には見えた
作品名:毬藻と人間 作家名:麦酒