さくら吹雪
恋したら、消えてしまうと知っていた。
それが雪女のさだめ。
子どもの頃から繰り返し、聞かされていた。
誰にも気を許してはいけないよ。
恋をしてはいけないよ。
けれど、繰り返されるたびに憧れた。
恋というものに。
それはどんなものなの。熱いの楽しいの苦しいの。
身を焦がすほどの想いがこの世の中にあるなんて。
ほう、と息をつけば、まわりのものはたちまち凍っ
てしまう。美しい花も、愛らしい小さな動物たちも、
私は触れることができない。
だから。
知らなかった。信じなかった。あなたに会うまで。
あのね、後悔はしてないよ。あなたに出会えたこと、
恋したこと。
でもできるなら、もう少しだけ一緒にいたかった。
ねえあなた、春を待ってね。私、大急ぎで生まれ変わ
るから。
桜の樹になって、あなたに花びらを降らせるから。
そしたらどうか思い出してください。
あの子に出会ったのは、こんな吹雪の日だったな、と。
~ 了 ~