ゆでたまごさんとブランケット
別名、ライナスの毛布。
近頃は、かなり有名な単語になっているように思います。
何故今、この単語を取り出して来たのかと申しますと、勿論ゆでたまごさんのお話に登場するからなのでございます。
何を隠そう、ゆでたまごさんはブランケット――いえ、タオルケットの大、大、大ファンなのでございます!
『ファン』と言いますと、こう、『生き物』を追いかける人々を指すものと混ざってしまいまして、少々不便でしょうか。
そういった事情もありまして、これからは『愛好家』という言葉に置き換えさせていただきましょう。
タオルケット生地で重要とされます要素は、幾つかあげることが出来るようです。
なまたまごの場合ですと、まずは手触りに注目します。
しかし、ゆでたまごさんの場合は、『匂い』なのだそうです。
「いいにおい〜」
と、タオルケットに抱きついて喜んでおられる姿をしばしば拝見することがありますが……。その『におい』がどういったものであるのかは、生憎ゆでたまごさん以外にははっきりと分からないものであると思われます。
太陽のにおい、とはまた別物であるようです。
何故なら、わたくし共の暮らす地域では、余りタオルケットを外で干す機会に恵まれないのでございます。
むしろ、珍しく太陽の下に干したばかりのタオルケットには、ゆでたまごさんは余り抱きつくことがないのです。
「何かね、干したばかりのタオルケットってこう、ぱさぱさしてるから。だから、あんまり気持ちよくないんですよ」
――ああ、成程。
実は手触りにも拘っておられたのですね……。
「においもね、何ていうか……好きなのは、太陽のにおいだけー、というんじゃなくてですね……」
――ではなくて?
「こう、畳と、埃と……太陽の残り香というか……う〜ん……」
……ほこり、ですか……。
ああ、でも、畳のにおいというものは、少しだけ分かる気がいたします。
「……う、うまく……というか、全部説明しきれない……っ!」
なるほど……。
「でも、クッキーなら言えますよ!あの、バターがたっぷりと入っている、こうばしいにおいが好きです!」
タオルケットから一気に食べ物ですか――。
いえ、確かに『におい』という関連はあるようですが……。
「それで、手触りは――こう、しっとりとしてきたころが一番気持ちよくないですか?」
――確かに。
何せ湿気が豊富な地域でございますから、『しっとり』には事欠くことがございません。
「あと、『自分のにおい』がするという理由を教えてくださった方もおられました」
なるほどなるほど……。
――おや、気がつけばそろそろ幕引きをお時間とか。
それでは皆様、本日はご来場いただき、誠にありがとうございました。
またいつか、ご縁がありましたら是非お目にかかりたいものです。
それでは、それでは――――。
《終わり》
作品名:ゆでたまごさんとブランケット 作家名:川谷圭