感情の切断
いくら国境守護兵がいないからと言っても、わざわざ危険な国境を通るものはそうそういない。
人など通らないと思っていたが、どうやら違ったらしい。
「…ところであんたはどこの国の人間だ?
国境が危ないと分かっているのにわざわざ来たんだろ?」
「ああ。俺はノルウェーの人間だ。北海帝国のおこぼれ貰ってなんとか頑張ってるみたいだよ」
「そうか、ノルウェーの人間なら北海帝国の名でどうとでもできるか…」
「ま、そいうこった」
…と、
トリスの鼻先に冷たい何かが落ちた。
「…雪…?」
空を見上げると、いつの間にか雲が低くなって雪が降ってきていた。
「やばいっ、雪降ってきやっがた!早いとこ首都についとかねえと!」
慌てて荷を背負う。
そしてトリスの手を握ると、
「楽しかった!ありがとうな!」
と破顔して駆け足でどこかへ走り去っていく。
挨拶する間もなかったほど急いでいたのでさよならは言えずじまい。
「…」
ただ握られた手を見つめながら、再び空を見る。
「……人のぬくもり…か…」
そして血抜きが終わった肉の塊の解体を始める。